ジョコウィ氏当選を祝福 未知数の国政に不安も 欧米メディア
23日に大統領選挙の当選が確定したジョコ・ウィドド氏(通称ジョコウィ)に国内外から祝福が届いている。新指導者へ期待が高まる一方、ASEAN(東南アジア諸国連合)の大国の舵取り役を任されるだけに、欧米メディアの一部には政治手腕を不安視する声もある。
ユドヨノ大統領は22日、真っ先にジョコウィ氏に電話し、祝福した。ブディオノ副大統領は「国民の勝利だ」と強調した。
インドネシアの有力紙コンパスはジョコウィ氏の勝利を「(インドネシアの)民主主義は確実に成熟した」との見出しで紹介した。日刊紙コラン・テンポは紙吹雪の中で喜ぶジョコウィ氏の写真を1面で掲載し、「公正な大統領」との見出しを付けた。
両紙は、総選挙委員会(KPU)公式発表の当日に大統領選から「撤退」を表明したプラボウォ氏の行動を批判しており、国民の意思で選ばれたジョコウィ氏の正当性を強調した。
欧米メディアはジョコウ
ィ氏の当選を歓迎する一方、国政の経験がない点や、保護主義的な経済政策に懸念の表明も出ている。
英紙ガーディアンは「(ジョコウィ氏)勝利は旧体制復古を狙う勢力を崩壊させた」と歓迎した。しかし、米CNNは「外交や安全保障問題に関しては経験が足りない」と指摘した。米ブルームバーグは今年1月に施行された保護主義的な新鉱業法をジョコウィ氏が支持しており、「外資企業に大きな影響がある」と警鐘を鳴らした。英紙フィナンシャル・タイムズは燃料補助金の上昇は財政赤字の悪化を招くと指摘し、外資誘致には投資環境の改善が必須だとした。
各国首脳からは祝電が相次いだ。米国のオバマ大統領は23日午前11時、ジョコウィ氏に電話し、「(大統領)当選おめでとう」と激励した。ジョコウィ氏は同日、安倍晋三総理大臣と電話会談した。安倍総理は当選を祝い、「今後も日イの戦略的パートナーシップを発展させたい」と強調した。さらに、早期の訪日を要請し、ジョコウィ氏は要請に応じる姿勢を示した。(小塩航大)
【解説】政策よりイメージ先行 大統領選が残した課題
初の一騎打ちとなった大統領選挙。野望実現に向け用意周到に戦略を練ってきたプラボウォ氏の猛追劇で過熱したが、過半数の有権者は実務派の首長ジョコウィ氏を選んだ。政策議論より候補者のイメージをめぐる攻防が繰り広げられたが、国論を二分した歴史的選挙で浮き彫りになった課題は数多い。
ジョコウィ氏の「急速な昇進」は出馬当初から問題視された。全国レベルで敏腕市長として名前が取りざたされるようになったのは2012年初頭。半年後にはジャカルタ特別州知事に就任し、さらにわずか1年で大統領候補に指名された。誇れる実績はあくまで試験導入した事業や斬新な構想に過ぎないとする批判は根強く、同調者も少なくなかった。
プラボウォ氏が1980年代にスハルト氏の次女と結婚し、将来の大統領後継者として異例の昇進を続けてきたエリート将校であることは保守層にアピールした。世論調査で「人権侵害」重視は少数派。ジョコウィ陣営が糾弾した「軍籍剥奪」も空振りした。
だがプラボウォ陣営が前面に出した「スハルト懐古」への共感が広がったとは言えない。プラボウォ支持の根強さは、既得権益層が、役所や事業現場への抜き打ち視察などで透明化を推進するジョコウィ氏に危機感を抱いたことが最大の理由だろう。また20年以上前のスハルト黄金期の記憶を持たない若年層が「優柔不断なユドヨノ氏」への反発から、「雄弁で強力なリーダーシップのプラボウォ氏」を待望し、ジャカルタに出てきたばかりの地方出身者で一見地味な実務派ジョコウィ氏を、未熟で力不足と見なしたこともプラボウォ人気につながった。
一方で、メディアの偏向や誹謗(ひぼう)中傷もひどかったが、冷静に見極めた有権者も案外多かったと思う。
気になるのはジョコウィ氏について「メガワティ氏の操り人形」との批判が有権者の共感を得ていたことだ。ジョコウィ新政権は「傀儡(かいらい)」になるとの見方は早計だろう。
まずメガワティ氏に「人形を操る」指導力があるのか、を問う必要がある。ジョコウィ氏が吐露したように、選挙戦では最後の2週間になり、メガワティ氏が重い腰を上げて劣勢の西ジャワを数カ所回り、ようやく党予算も末端に届いた。実行力、指導力に疑問符が付くのは当然だ。
メガワティ政権(2001〜04年)で、実権を握る「ミスター大統領」とも言われた夫のタウフィック・キマス氏は昨年他界した。長女プアン氏ら新世代の党幹部、選挙戦で行動力を発揮した超党派の政治家や各分野の専門家、支持者らがいかに連携していくかが重要だ。メガワティ氏の判断ではなく、ジョコウィ氏自ら選挙戦終盤で掲げたスローガン「精神革命」が、効率的な新政権誕生を通じて実現することを期待したい。(配島克彦)