地元ソロの誇り 実母「国民信託、受け止めなさい」 市民歓喜、感涙の親族 本紙密着取材

 ジョコウィ氏の勝利が確実視され、出身地の中部ジャワ州ソロは歓喜に沸いた。地元市民は退任からわずか2年で一気に大統領の座まで上り詰めた前市長をソロの誇りとたたえ、ソロやジャカルタで取り組んできた市民目線の施策を全国に広めてほしいと希望を託した。

■本人からの電話
 この日、ソロ北部スンブルにある閑静な住宅街の一角にテレビ中継車が並び、報道陣が押し寄せた。開票が始まると、ジョコウィ氏の母、スジアトミさん(71)の自宅にソロや近郊に住む一族が次々とやって来た。
 長男ジョコウィ氏の妹3人とその夫、子どもたちが居間に敷かれたカーペットに座り、テレビを食い入るようにして見つめる。チャンネルを頻繁に変えながら、プラボウォ優勢のニュースを流すTVワン、娯楽番組中心のSCTVなどの報道も見比べる。陣営側のメトロTVがジョコウィ勝利を打ち出すと「勝ったぞ!」の大歓声。スジアトミさんは娘たちと抱き合って感涙にむせんだ。
 そこへ自宅の電話の音が鳴り響く。ジャカルタにいるジョコウィ氏からだった。「国民の信託をしっかりと受け止めなさい。決して尊大になってはいけません」。聞き取れないほどの小声に母親からの激励と愛情が入り混じっていた。
 前市長に対するソロ市民の敬愛は深い。商店従業員ウランダリさん(31)は「ジョコウィ氏はソロ市民の誇り。市民の声に真剣に耳を傾けてくれた」とたたえる。市長2期目の任期途中でジャカルタ特別州の知事に就任したが、今でも頻繁にソロを訪れ、市民との交流を欠かさない。「市民の目線から諸問題を考えられる大統領になってくれると思う」。

■荒唐無稽な中傷
 だが選挙戦はソロ市民にとって苦渋に満ちたものだった。ジョコウィ氏に向けられた中傷は宗教や民族など出自をめぐるものに集中したが、地元の人々の目には荒唐無稽に映った。祖父母に至るまでどこの村出身のどのような人物か、よく知られているからだ。「でもPKI(共産党)とうわさされたことだけは許せない。PKIはインドネシアのムスリムにとって最大の侮辱になる」。東ジャワ出身のタクシー運転手、ソニー・スチャフヨさん(46)は顔をゆがめる。大票田である故郷の友人から真相を聞かれる度に「やっていいことと悪いことがある」と憤った。
 優勢が伝えられたジョコウィ氏を陥れるため、プラボウォ陣営は手段を選ばなかった。それを最も痛感していたのは、家具業の実業家だったジョコウィ氏を政界に導き、メガワティ氏にソロの市長候補として紹介したハディ・ルディアトモ市長(54)だ。二人三脚で市政を刷新し、ジョコウィ氏の後任に就いた前副市長。ソロの闘争民主党(PDIP)支部長を歴任する有力者だが、カトリック教徒ということもあり、ムスリムが多数派のソロの舵取りは思うようにいかない。
 「ソロもジャカルタもジョコウィ氏の後任はカフィール(背信者、異教徒)」。PKIと共にプラボウォ陣営が放った言葉が胸に突き刺さる。ジョコウィ氏に選挙戦を勝ち抜くための助言をしてきたルディアトモ市長はこの日、午前8時に投票を終えると「票が操作される恐れのある投票所が市内に数箇所ある」と巡回に注力した。

■盟友のエール
 ソロの有権者は約41万人。4月の総選挙で闘争民主党の得票率は51%に達し、2、3位の国民信託党(PAN)、グリンドラ党の約7%を大きく引き離した。伝統的にスカルノ信奉者が多く、ナショナリストの地盤は固い。それでも任期途中で辞めることへの批判は少なくない。
 会社員ファリッド・ムホロブンさん(31)はソロでは少数派のプラボウォ支持者。ジョコウィ氏は評価しているが、所属政党に人気を利用されていると指摘する。「何でもメガワティにお伺いを立てなければならないジョコウィ氏が気の毒だ。市長も知事も任期を全うし、その功績が認められれば誰もが大統領にと推すはず。野心家でないだけに残念だ」と話す。
 ジョコウィ氏と共にソロの家具・木製品産業を振興してきた実業家ムギアントさん(43)は、ジョコウィ氏が地方都市のソロで取り組んだことは全国で通用すると強調する。政治にかかわったことはなかったが、今回は1カ月掛けて東ジャワのマドゥラ島やスマトラ島ランプンなどジョコウィ氏の支持者が少ない地域を回り、ソロで展開してきた事業について説明した。「外資誘致に消極的」「保護主義的」などと誤った見方を正すことに努力したという。「ジョコウィ大統領誕生でインドネシアの経済成長を後押しできる。大言壮語は不要。着実に前進していくことが大切だ」と盟友にエールを送った。(中部ジャワ州ソロで配島克彦、写真も)

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