改革かスハルトか 二時代の対決、再び あす 大統領選投票

 今年10月から任期5年の大統領を決める選挙はあす、投票される。1998年以来の民主化が踊り場を迎える中で、「レフォルマシ」(改革)と「スハルト」の衝突が繰り返されている。民主化を深めたいジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事(53)か、開発独裁時代の回帰をにらむプラボウォ・スビアント元戦略予備軍司令官(62)か。新旧二つの時代の対決だ。                           
 ユドヨノ政権10年の最後が汚職に染まり、民主化時代16年は何だったのかが問われている。
 ジョコウィ氏は「民主化を洗練させる」立場。5日のテレビ討論で「計画を確かめ、組織をしっかり運営し、物事を実現するまで管理しなければならない」と持論を展開。電子政府、汚職の削減、スピーディな行政。ソロとジャカルタで実績を残した敏腕首長は、それが国でも可能だとうたう。
 プラボウォ氏はスハルトプリンスだ。先月のスハルト夫妻の墓参で継承者としての立場を確かにした。陣営のゴルカル党はスハルト時代の翼賛機構を基にし、党首バクリー氏はスハルト体制が育てた非華人実業家だ。プラボウォ氏は外国、汚職などに断固として立ち向かう「アジアのトラ」と売り込んだ。

■縁故と世代間対立
 選挙は世代間の対決でもある。スハルト時代の縁故主義はいまだ強固で、まだ大多数の国民にチャンスが開かれたとは言えない。大財閥のパイは大きく、若者を主体とする新参者には冷たいまま。「開くか開かないか」が争点だ。
 両候補の生い立ちは裏付ける。ジョコウィ氏は叩き上げ。川沿いの貧しい家で育ち、家具の輸出で成功した。ソロ市長の手腕が評判となり、ジャカルタに呼ばれた。一方、プラボウォ氏は豊かな家に生まれた。父は著名な経済学者スミトロ氏。カルフォルニア大学バークレー校で学んだブレーン集団を束ねた。その長男プラボウォ氏は陸軍で異例の出世を遂げ、スハルト次女のティティック氏と結婚(後に離婚)。次男ハシムは人脈を活かし石油で財をなした。このプラボウォ兄弟が08年につくったのが、グリンドラ党だ。

■中傷、ばらまき
 ジョコウィ氏に向けられた「華人」「非ムスリム」との誹謗中傷が争点を単純化した。
 多様なメディアから一気に流布した情報により、ジョコウィ氏が伸び悩みプラボウォ氏が追い上げた。だが、このイシューは「多様性の中の統一」を掲げる国の統合を蝕み、どちらが勝っても対立の種を残しかねない。マナド出身のキリスト教徒の母を持つプラボウォ氏にも響きかねない状況だ。
 いびつな所得分布を背景に、豊かではない「庶民」が分厚い票田になる。中卒以下が7割の社会では政策論議よりばらまき公約に有権者の目線が向いた。
 6月上旬の世論調査で6%差。7月の状況は分からず投票の瞬間まで有権者の心は揺れそうだ。(吉田拓史)

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