軍関係者の煽動警戒 政治的中立の徹底を 大統領ら
大統領選キャンペーンが最終盤に入り、候補者陣営間の攻防が過熱するなか、ユドヨノ大統領や閣僚らからは治安維持と、軍の政治的中立の徹底を強調する発言が相次いでいる。現役軍人の政治活動は法律で禁止されているが、一部が特定陣営の応援に参加しているとの指摘がある。政権幹部の発言は軍の政治関与を改めてけん制する狙いがあるとみられる。
ユドヨノ大統領は3日、東ジャカルタ・チランカップの国軍本部でブカプアサ(断食明け)の夕食会に出席。ムルドコ国軍司令官ら現役将校をはじめ、トリ・ストリスノ元副大統領ら退役将校を前に「国民に恐れられるのではなく愛される軍隊にならなければならない」と強調。大統領選を控え、治安維持に努めるよう呼びかけた。
これに先立ち、大統領は同日、関係閣僚を集めて治安問題を協議した。閣議後の会見では、プラボウォ(グリンドラ党)とジョコウィ(闘争民主党=PDIP)両陣営の選挙戦が激化している現状を踏まえ、「選挙後に暴動が起きるのではないかとの懸念を耳にする」と指摘。投票結果をめぐる混乱をあおる動きには厳しく対処するとした。
ジョコ政治法務治安調整相も2日、ムルドコ国軍司令官やスタルマン国家警察長官、国家情報庁(BIN)のノルマン長官らと対応を協議した。同調整相は会見で、1998年のスハルト政権崩壊前後の暴動を念頭に「放火、その他の危険な行為には治安機関が対応する。過去に経験した悲劇を繰り返したくはない」と強調した。
発言の背景には、市民の安心感を高める狙いのほか、スハルト政権下で一大政治勢力を誇った軍組織や退役軍人の動きをけん制する意味合いもありそうだ。実際、2日と3日の会議とも、国軍や警察、公務員に政治的中立を厳守させる方針を再確認した。
現役軍人の政治参加では先月上旬、国軍の末端機関「バビンサ」が中央ジャカルタの有権者方を訪問し、元陸軍特殊部隊司令官でもあるプラボウォ氏への投票を呼びかけた疑いが持たれた。軍中枢は、有権者との間の認識の相違が原因で、意図的な投票誘導ではなかったと釈明。組織的な行動でもないとしたが、ジョクジャカルタ特別州内でもバビンサが陣営の広報用品を配布したとの報道もある。
一方、ジョコウィ陣営についたウィラント元国軍司令官は先月中旬、プラボウォ氏が97〜98年の活動家拉致を独断で実施したと口撃。陸軍時代に上官だった元BIN長官のヘンドロプリヨノ氏もプラボウォ氏に精神疾患の疑いがあったと主張するなど、大物退役軍人による中傷も目立つ。プラボウォ氏の軍歴剥奪処分を決めた際の国軍の内部文書も流出した。
退役軍人の一部は現役の国軍内にも影響力を維持しており、誹ぼう中傷合戦をあおっている側面がある。問題の放置は民主化の柱である軍の政治的中立の崩壊を意味する。ジョコ調整相は2日の会見で「軍人などで逸脱した行動をとったものはそれぞれの規律に基づき厳しく処罰する」と強調した。(道下健弘)