元民主党幹部が初公判 法廷でKPK批判 ナザル被告 SEAゲーム宿舎汚職事件
SEAゲーム(東南アジア選手権大会)選手宿舎建設事業(総額千九百十六億ルピア、約十六億円)に絡む汚職事件で、受注業者から四十六億ルピアの賄賂を受領したとして、汚職罪に問われた元民主党幹部ムハンマド・ナザルディン被告(三三)の初公判が三十日、南ジャカルタ・クニンガンの汚職特別法廷で開かれた。同事件は、清潔なイメージを維持してきたユドヨノ大統領の出身政党の中枢を大きく揺るがし、最大与党の同党に対する国民の信用低下も引き起こした。被告が主張する他の党幹部の関与追及は進んでおらず、法廷を舞台に事件の全容究明が期待されている。
起訴状によると、ナザルディン被告は、国会第三委員会(法律・地方自治・人権担当)委員としての職権を乱用。自身が経営するアナック・ヌグリ社の部下、ミンド・ロサリナ・マヌラン受刑者(禁固二年半)と、民主党副幹事長のアンジェリナ・ソンダク国会第十委員会(教育、観光、スポーツ)委員を引き合わせた。
さらにアンジェリナ氏を通じ、同党幹部のアンディ・マラランゲン青年スポーツ担当国務相の事務所に掛け合うなどして選手宿舎建設事業の業者指名に便宜を図り、その見返りとして、受注業者ドゥタ・グラハ・インダ社のエル・イドルス受刑者(禁固二年)から四十六億ルピアの賄賂を受領した。
罪状認否でナザルディン被告は起訴事実を全面的に否認、事件を摘発し、捜査を行ってきた汚職撲滅委員会(KPK)批判を展開。「事情聴取で事件の詳細を聴かれたことはない」と主張し、「(海外逃亡する目前の今年五月、ユドヨノ大統領の私邸のある)チケアスで大統領と面会したことについて説明したが、KPKはそれについては質問せず、シンガポール以降の逃亡中の話ばかり聴いてきた」と述べ、捜査は公平に行われなかったと訴えた。
弁護人は、検察は被告が逃亡している間に作成した調書を基に起訴状を作り上げただけだとし、被告の主張はまったく反映されていないと批判した。
■裏金の行方は不明
被告はこれまでの捜査で、アンジェリナ氏は同事業で九十億ルピアを受け取り、この資金は、アナス・ウルバニングルム党首やジャファル・ハフサ氏ら民主党幹部らに渡ったと主張、アナス党首を選出した昨年の党首選の裏金に利用されたと訴えてきた。
同事件では、これまでに部下のミンド受刑者と業者のイドルス受刑者、青年スポーツ担当国務相事務所次官のワフィッド・ムハラム被告(求刑同六年)の三人のみが訴追されたが、ナザルディン被告が関与を主張する他の民主党幹部は一人も容疑者に断定されていない。
法律家のジョンソン・パンジャイタン氏は、ユドヨノ大統領の側近たちの関与をめぐり、KPKは真剣に追及する姿勢を見せていないと批判。初公判でナザルディン被告がユドヨノ大統領と面会したことに言及した際、判事が途中で話をさえぎったことを問題視し、「司法当局が政府を恐れていると思われても仕方ない」と指摘した。
選手宿舎事業をはじめ、ナザルディン被告が暴露してきた汚職疑惑は多数あるにもかかわらず、KPKは現時点では同被告やその部下しか訴追しておらず、今後、巨額の公金流用疑惑の全容究明を急ぐべきだと訴えた。