汚職で初の終身刑 元憲法裁長官に厳罰 15首長選で収賄

 複数の地方選不服申し立てに絡み、多額の賄賂を受け取ったとして汚職撲滅法違反と資金洗浄の罪に問われた前憲法裁長官アキル・モクタル被告(53)に、南ジャカルタの汚職特別法廷は30日夜、終身刑(求刑・終身刑と罰金100億ルピア)の判決を言い渡した。汚職事件で終身刑が適用されるのは初めて。選挙結果の有効性判断など強大な権限を持つ司法機関トップの犯行を重く見た。検察弁護側双方が控訴する。

 判決によると、アキル被告はバンテン州や南スマトラ州など、15自治体の首長選の不服申し立てで、特定候補者に有利な審査をする見返りに賄賂を要求。憲法裁判事だった2010年ごろから、長官就任後の13年10月にかけて計570億ルピア(約4億9千万円)を受け取った。
 さらに、不正に得た現金を不動産などに換え、金の出所を分かりにくくする資金洗浄は、ゴルカル党の国会議員だった02年から行っていた。議員時代に200億ルピア、最高裁判事就任後に1600億ルピアを洗浄した。
 アキル被告は公判で「起訴内容は全て事実と異なる」と全面否認していたが、判決は弁護側主張を退けた。スウィディヤ裁判長は「司法の最高機関の責任者として、公正な裁きを求める人々の最後の砦として、良い見本とならなければならない。被告の行動は憲法裁のイメージを損なうもので、終身刑を免れる理由は見当たらない」と量刑理由を説明した。
 判決後、アキル被告は「陰謀であり、報復だ」と述べ、控訴するとした。一方、検察側の汚職撲滅員会(KPK)は求刑した罰金100億ルピアと公民権停止処分が認められなかったことを不服として控訴する。
 アキル被告は08年に判事に就任し、昨年4月から憲法裁長官。同年10月、バンテン州ルバック県知事選で前州知事のアトゥット被告=公判中=が支援する候補者陣営を当選させるために、前知事らから現金を受けとる約束をした後、KPKに逮捕された。贈賄側では、アトゥット被告の弟で実業家のワワン被告に禁錮5年など、これまでに一審で3人に有罪判決が出ている。

■最高刑で抑止効果
 【解説】アキル前憲法裁長官に対する終身刑判決は、賄賂と引き換えに選挙結果をも覆し、民主主義の根幹を揺るがす犯罪に厳しく処罰するという、汚職特別法廷の姿勢の表れといえる。
 終身刑は汚職撲滅法の最高刑。中銀流動性支援不正流用の捜査で収賄し、08年に禁錮20年の判決を受けたグナワン元最高検検事と比べても重い。アンディ前青年スポーツ相やアナス前民主党党首を在職時に容疑者認定し、その地位にかかわらず汚職犯を訴追する方針を明確にした汚職撲滅委員会(KPK)に続く流れだ。
 ただ、汚職特別法廷は04年に第一号がジャカルタに設置されたばかりの新しい裁判所。前例として参考にできる判例や量刑相場が確立されていないないという難しさも抱える。
 汚職事件ごとに、刑が極端に重くなったり軽くなったりすれば判決の正当性が薄れ、犯行抑止の効果や世論の支持も半減する。汚職特別法廷は犯行の悪質性や社会に与える影響などを慎重に判断し、判例や量刑の判断基準を確立していく必要がある。(道下健弘)

◇憲法裁判所 
 民主化や地方分権の進展に伴う紛争を解決する司法機関として03年に設置。違憲立法審査や国政・地方選挙の有効性判断、政党の解散命令権、正副大統領の罷免権など強い権限を持つ。三審制はとらず、審査結果は変更できない。

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