ゆれる、国是「多様性」 宗教争点化が過熱
大統領選挙は宗教が争点化して危険水域に入りつつある。1万数千島の多様な人々を集めた国家の基盤、「多様性の中の統一」という国是が揺れている。
■発信元はPKS
「ジョコウィ氏が大統領になればシーアの宗教相を選ぶ」。今、こうした情報が流布している。少数派のシーアを宗教相に選ぶことで、多数派のスンナ、引いては宗教界が少数派に牛耳られるとたきつける効果がある。宗教が多様なインドネシア社会のとても敏感な部分は対立を生み易いし、選挙の争点を一点に絞ることもできる。ジョコウィ氏は12年の州知事選でも同様のキャンペーンに苦しんだ。シーアはこの数年、苦しい状況に直面している。イスラム知識人会議(MUI)はシーアを異端派とみており、マドゥラ島では2012年、13年とシーア信者への襲撃が続けて起き5人が死亡した。
「シーアの宗教相」の発信元はイスラム復興をにらむ福祉正義党(PKS)の広報サイト「PKSピユンガン」と言われる。ここから出た情報がソーシャルメディアと絡まり、連鎖反応を起こした模様だ。しかも「イスラエルメディアがジョコウィ氏が取り上げたため、イスラエルを支持している」と主張するブログを転載するなど、事実に即していない反ジョコウィキャンペーンの様相を呈している。
■「千%ない」と陣営反論
ジョコウィ陣営のムハイミン民族覚醒党(PKB)党首は「(政権を取れば)宗教相は最大イスラム団体のナフダトゥールウラマ(NU)から出す。シーアから選ぶことは千%ない」と話した。ジョコウィ氏は22日の討論会では「パレスチナの国連加盟を支持する」と親パレスチナを強調。これまで「華人のキリスト教徒」と誹謗中傷を受けたことを踏まえ、礼拝する様子を動画サイト「ユーチューブ」で閲覧できるようにした。
■キリスト教徒の動向
PKSなどを含むプラボウォ陣営からキリスト教徒離れが進んでいるという。プラボウォ候補は18日、キリスト教徒が多数派の北スラウェシ州マナドで講演し「私が多元主義者じゃないって、誰が言ったのか。母はキリスト教徒だ。家族にはたくさんカトリックがいる」と、キリスト教徒の支持つなぎ止めに懸命だ。
プラボウォ弟のハシム・グリンドラ党顧問会副会長は昨年7月、米国友好機関のフォーラムで「PKSの大臣のもとで、農業省は9カ月でキリスト教徒73人を解雇した。今は1人のキリスト教徒も農業省にいない」「差別を止めさせなければならない」とPKSを批判したことがある。そのPKSを陣営に抱えての選挙戦で、キリスト教徒の離反に苦慮している様子だ。 (吉田拓史)
▲ 福祉正義党(PKS) 70年代の大学でのイスラム復興運動が始まり。ムスリム同胞団を模した組織をつくり、スハルト政権崩壊後の98年に正義党を結党したが、99年総選挙で議席を得られず、福祉正義党に看板を掛け替えて2004年総選挙に臨んだ。以降ユドヨノ政権2期(04〜14年)で与党。次期国会は40議席、第7党。