【ポスト・ユドヨノ時代を読む】(6) 得票率 27%と35%の違い 闘争民主、大勝後の政局

 ジョコウィ氏の大統領選挙への出馬が、3月14日電撃発表され、全国のジョコウィ・ファンは大喜び。闘争民主党の各候補者たちも歓喜の声をあげた。選挙キャンペーン期間中、同党幹部は楽勝ムードさえ漂わせ、国会議員選挙の公式目標は得票率27%。ジョコウィ氏自身は強気に35%と訴える。こういった数値目標は何を意味し、どのような政治的な思惑があり、それが実現すると何が待っているのか。その展開を考えてみよう。 
 メガワティ元大統領率いる闘争民主党は総選挙で大勝して10年の野党生活に決別し、今後のインドネシア経済の黄金時代に国家の舵取りをしたいと考えている。人気のジョコウィ氏を大統領に担ぎ上げ、長期政権を狙う。1期5年の政権を2期やって2024年。その後は「建国の父」スカルノ初代大統領の血を引くメガワティ氏の息子か娘、もしくは党内の人気若手を次の大統領候補に据える。それが上手くいけば、今から15年は国政を牛耳れる。こういう夢を描いている。
 得票率27%は、ジョコウィ氏を大統領選に擁立するための目標である。選挙法の規定で25%以上の得票率、もしくは国会の議席保有率で20%以上を獲得した政党か政党連合のみが7月9日の大統領戦に候補者をノミネートできる。どんな党でも単独で候補を擁立したいから25%を若干上回る数字が、得票率の目標となる。
 とはいえ、25%そこらでは配分される国会議席も全560議席中の三割ほどでしかなく、安定政権を作るには他党と連立するほかない。現ユドヨノ政権が6党によるジャンボ連立で、数的には安定しているようにみえるが、結束は皆無で、連立は実質的には機能していない実態を、闘争民主党はよく知っている。なので2〜3党によるコンパクトな連立を目指す。そのためには自党がより多くの議席を確保し、他党への依存度を減らす。ジョコウィ氏の35%目標は、その政権ビジョンを大いに意識している。

■ ジョコウイ氏の自立度
 この数字は夢ではない。15年前、民主化後初の99年選挙で同党は33%取っている。当時よりもメディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の影響が大きい今なら、もっと浮動票を取れると考えている。とりわけ、ユドヨノ氏率いる国会第一党の民主主義者党が、幹部の汚職事件の連発で世論に見放されている中、大量の浮動票がジョコウィ支持で闘争民主党に流れることを期待している。
 そして重要なことは、もし35%ゲットできれば、明らかに「ジョコウィ効果」の結果だと主張できる点にある。それは、大統領選でジョコウィ氏とペアを組む副大統領候補を決める際、彼自身の選好を示しやすくなることを意味する。正副大統領候補を決めるのは、あくまでも党首のメガワティ氏であり、彼女は側近のアドバイスや他党幹部が持ちかける連立の誘いに耳を傾けながら、彼女が考えるベストな副大統領候補を提示してくる。その意思決定にジョコウィ氏が口を挟むためには、自身の「功績」をアピールできる環境にないとダメである。35%取れば、メガワティ人気が絶頂期だった99年選挙の33%を上回り、誰もが彼の功績を認める。できるだけメガワティ氏との力関係を有利にして、副大統領候補選びには自分の意思を反映させたい。この密かな思いが35%という数字に込められている。

■200人当選の光と影
 闘争民主党は前回の09年選挙では14%の得票率で、国会に94人を送り込んだ。今回35%取れれば、おそらく200人をゆうに超える議員が当選する。同党の公認候補は560人なので、その約4割が当選することになる。当然、比例名簿順位の下の方に名前があり、本来なら箸にも棒にもかからない人も「ジョコウィ旋風」の恩恵で当選する。そういう議員が政権与党の威光を笠に、国会で利権をあさるという事態になりかねないのだ。
 そういう国会と、有権者がジョコウィ氏に期待していることの間のギャップは大きい。反汚職や行政改革、福祉の拡大などでリーダーシップを期待されるジョコウィ氏が、どこまで国会を制して政策を実行できるか。お膝元の闘争民主党やメガワティ氏とは、いつまで歩調を合わせてやっていけるか。35%という数字は、彼にとって吉にも凶にも転ぶ可能性を秘めている。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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