バクリー氏「ARBノミクス」 大統領選向け秘策 スハルト回帰を切望
ゴルカル党大統領候補のバクリー氏は経済誌「グローブアジア」3月号に登場、積極財政、福祉国家、スハルト回帰を明確にした。低迷する支持率を浮揚させようと必死の様子だ。
同誌のインタビューに答え、自身の名前「アブリザル・バクリー」からなる「ARBノミクス」を披露。これは積極財政政策で、政府はアジア通貨危機の教訓から政府債務残高のGDP比を25%程度に抑えているが、バクリー氏は強気の運用が可能との考えだ。「インドネシアほど低く抑えている国は少ない。GDP比は概して60%。300%の国すらある」。高成長を実現するため、製鉄所、製油所などを整備し、インフラ開発では官民連携の枠組みを積極的に利用するという。
ユドヨノ政権第1期で福祉調整相だったバクリー氏は拡大する格差の是正、福祉の充実も強調した。財源は燃料、電力に付与されているエネルギー補助金300兆ルピア。これを削減し低所得者向けの補助金にし、高校までの無料教育、農村開発資金などに使う。
石油・ガスの分野では「ナショナライゼーション(国有化)ではなくナショナリズムを支持する」とし、生産が下降する石油から、ガスにエネルギーを転換すると主張した。
政治方面では、スハルト回帰の傾向がとても強い。オルデ・バル(新秩序=スハルト体制)の再来を隠そうともしない。「分権化した今、多くが古き良きゴルカルの栄光の日々を切望している」。「警察は銃撃を受けているのに撃ち返すことができない」「法を執行する者(警察など)は人権侵害を恐れるべきではない」とも述べている。
大統領選レースの先頭を走るジョコウィ・ジャカルタ特別州知事については「この国の運営は冒険主義的な人には務まらない。経験ある人がかじをとらないといけない」と話した。
■シドアルジョ事故で根強い批判
バクリー氏には東ジャワ州シドアルジョの熱泥噴出事故がある。自身が率いる財閥が熱泥の噴出を起こし、3町11村にまたがる約800ヘクタールが泥の下に沈んだ。被害者への補償は十分ではない。ゴルカル党のアクバル最高顧問は今年に入って「熱泥事故はゴルカル党のイメージを傷つけかねない」と批判。昨年11月の全国代表者会議ではバクリー氏の大統領候補に非難が噴出。総選挙後に再び会議を開くことを決めており、バクリーおろしが起きる可能性がある。
スハルト時代の人権侵害を追及してきた人権団体「コントラス」のクリスビアントロ副代表は「オルデ・バルが共産党員虐殺、タンジュンプリオク事件などが起きた時代だと忘れてはいけない」と指摘、警察官の武器使用も「適切ではない。異常な状況でのみ、武器の使用は正当化できるが、警察官の命が脅かされる状況は最近、起きていない」と述べた。
バクリー氏はエネルギー補助金削減をうたったが、12年3〜4月の「燃料値上げ国会」では、本会議直前に与党ながら反対を表明し、棚上げに追い込んだのはバクリー党首の判断だ。(吉田拓史)