【ポスト・ユドヨノ時代を読む】 ? ジョコウィ氏出馬 闘争民主固まる、総選挙前に発表 副大統領候補、他党から

 2月半ば、メガワティ元大統領とジョコウィ・ジャカルタ特別州知事の各側近から、「どうやら決着がつきそうだ」と連絡をもらった。詳細を聞いて、私も「よし」と拳を握った。
 メガワティ氏率いる闘争民主党が、最終的にジョコウィ氏を大統領候補として擁立する。この決定が彼女の口から出たということだった。
 3月に入って、その話が「うわさ」として政界に伝わりつつあるが、闘争民主党幹部には箝口令が出ているため、具体的な話はメディアに出ない。そこで、今回はその決定過程と背景をみていきたい。
 本連載で以前示したように、メガワティ氏の取り巻きはジョコウィ人気を警戒してきた。その理由は、彼の求心力が高まれば、党首のメガワティ氏のカリスマ性が薄れ、取り巻きとして得てきた特権や利権が危うくなると恐れているからである。こういう人たちが、ジョコウィ人気を横目に、メガワティ氏の大統領選への再出馬を懇願してきた。彼女自身、党の各地方支部から圧倒的な「ジョコウィ待望」の声を聞く一方、側近からは再出馬の説得を受け続け、板挟みの状況にあった。
 この板挟みに決着をつけたのが党内の「チーム11」である。このチームは、昨年4月にメガワティ氏の直下に組織され、大統領選挙に向けての党の戦略を彼女にアドバイスする役目を持つ。党内でジョコウィ擁立の動きと、それを阻止しようとする勢力をにらみつつ、着々とデータを蓄積し、理論武装してきた。
 とくに重視したのは、昨年10月から毎月行っている党内世論調査で、今年2月までの5回分のトレンド・データが蓄積された。また民間調査機関の世論調査も30件以上参考にしている。これらのデータに加え他党情報も総動員して、2月半ばにメガワティ党首にかなり具体的な選挙戦略をアドバイスする機会を得た。総選挙キャンペーンが3月16日からスタートすることから逆算すると、このチーム会合が党の方針の最終決定の場と予想されていた。

■「チーム11」3つのシナリオ
 チームは3つのシナリオをメガワティ氏に示した。「シナリオ1」がメガワティ大統領とジョコウィ副大統領のコンビで出馬、「シナリオ2」がジョコウィ大統領と党内の誰かが副大統領というペアで出馬、「シナリオ3」がジョコウィ大統領と党外の副大統領候補という組み合わせである。その上で、チームは「シナリオ1」を危険だとアドバイスした。7月の大統領選の第一ラウンドでは優位に立てるかも知れないが、決戦ラウンドでは負ける可能性が大きいと指摘し、避けるべきシナリオと結論づけた。
 これで、残った2つのシナリオのどちらがいいかという話しになり、2よりも3のほうが現実的であるという意見が出た。これは国会で安定勢力になるためには連立政権を組む必要があり、その連立政党が副大統領候補を推挙してくる可能性をにらんでの意見である。
 これらのアドバイスを受けて、メガワティ氏は、自分が出馬しても勝機が薄いことを客観的に知った。これまで取り巻きたちに「勝てる勝てる」と賞賛されてきたが、それが幻想と知った瞬間だったに違いない。チーム11のアドバイス通りに党の選挙戦略を最終決定したのである。
 現在、党は早急にジョコウィ政権下での政策ビジョンの作成に取りかかっている。これを擁立の発表と合わせて出し、党が真剣にジョコウィ政権の下で国家運営を行っていく姿勢を有権者に示そうとしている。
 メガワティ氏によるジョコウィ擁立の発表は、選挙キャンペーン開始前日の3月15日の可能性が高いものの、キャンペーンの中盤で発表し、他党がネガティブ・キャンペーンを行う隙を与えないという戦略も議論されている。いずれにせよ、総選挙前に発表し、全国の国会・地方議員候補者たちを勢いづけ、その勢いで30〜40%の得票率を目標とする。国会内の議席の35%ほど確保できれば、連立相手も1党か2党でよいから、コンパクトな政権を実現できる。こういうビジョンを秘め、メガワティ氏の闘争民主党は、ジョコウィをシンボルに掲げて、ポスト・ユドヨノのインドネシアの舵取りに向けて一歩踏み出そうとしている。=月一回のペースで随時掲載(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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