【ポスト・ユドヨノ時代を読む】(4)調査、精度より効果狙い 政治コンサル繁盛
前回まで、選挙の「台風の目」であるジョコウィ氏をめぐる政治の駆け引きについて観察してきた。私は個人的には彼が出てくると思っている。とはいえ他の人が大統領になる可能性はないのか。もちろんある。そのシナリオについて今回は考えたい。
メディアでは「世論調査」をもとに、誰が大統領候補として人気があるかを議論することが盛んだが、そもそも、その調査機関で信頼できるものは数が限られる。ジャカルタだけでも100以上の調査機関があるが、多くは政治コンサルタント業を中心としている。
■相場、州知事1千万円
毎年、各地で地方自治体の首長選挙が何百と行われており、それらに出馬する候補者の選挙キャンペーンを請け負って、選挙公約からスピーチ、コマーシャル、街頭ビラなど一連の制作活動をパッケージで売り込むのが主な仕事である。言ってみれば企画屋さんだ。
この商売は05年の直接首長選挙制度の導入後に大繁盛で、今や一大産業である。県知事候補であれば500万円、州知事選候補であれば1千万円という相場が普通という。もちろん候補者の知名度や知事職の「旨味」に応じて相場は変動する。こういう企画屋さんが実施する「世論調査」は精度よりも「効果」を狙ったものが多く、いわゆるバンドワゴン効果やアンダードッグ効果といった投票心理戦に重きを置く。そのため、世論調査だけで勝負できる機関は一握りである。
その一握りの調査機関の名前はあえて出さないが、総じて言えるのは、信頼できる調査を見る限り、ジョコウィ氏の人気はダントツで、次に来るのがプラボウォ氏である。
■プラボウォ氏の広告戦略
ではプラボウォ氏に勝利の可能性はあるのか。もちろん不可能ではない。プラボウォ氏と言えば、スハルト元大統領の元娘婿として知られ、元陸軍特殊部隊司令官としてスハルト時代末期に国家権力の中枢に君臨していた人物である。当時を知る上の世代の人たちは彼を煙たがる傾向が強いが、「知らない世代」の若い人たちは、彼にナポレオンのような強いイメージを持つ傾向がある。これも彼が抱える米国人コンサルタントが仕掛けるメディア広告の成果でもある。もし、メガワティ氏がジョコウィ氏をジャカルタ特別州知事に留まらせると決め、自らは他党出身の副大統領候補とペアになって大統領選に出馬した場合、おそらくプラボウォ氏が勝つだろう。
プラボウォ氏のネックは政党基盤が弱いことだ。自ら率いるグリンドラ党の国会での議席保有率は5%弱。今年の総選挙を経て、倍の10%程度には増加すると予想されるが、それでも大統領選の出馬条件となる20%までは届かない。抜群の資金力を駆使して他の小党を取り込み、連立を組まなければ条件を満たせない。それがうまくいくかどうかは未知数だ。もし失敗した場合、彼は出馬できない。さらにメガワティ氏がジョコウィ氏を出さず、自ら出る。その場合どうなるか。メガワティ氏とゴルカル党総裁バクリ氏との一騎打ちの可能性がある。それでは有権者の「しらけムード」が頂点に達し、無投票が激増するだろうが、結果だけを考えればメガワティ氏が勝利する可能性も出てくる。
つまり、まだどう転ぶかわからないのが現段階である。これは前回と大きく異なる。09年はユドヨノ氏の再選はほぼ確実で、彼が率いる民主主義者党がどこまで票を伸ばすかが焦点だった。今年は様々な方程式が複雑に入り組んでいる。ドラマとしては、格段に面白いのである。
(本名純・立命館大学国際関係学部教授、月1回のペースで随時掲載)