消えた猿回し‥ ジャカルタで摘発開始
サルに芸をさせる「猿回し」が首都から消えた‥。ジャカルタ特別州は今週、路上の猿回しの一斉摘発に着手。一部のサルをすでに押収したが、摘発を察した多くの猿使いは雲隠れしたままだ。
イピ・ルフヤニ州畜産・水産局長が地元メディアに明らかにしたところによると、同局は25日までに21匹を保護した。州内に猿回しのサルが60匹はいるとみているが、摘発開始以降、猿使いは路上に出ることを控えていると指摘。「11月に摘発を再開する予定だ」と話した。
ジョコウィ知事は今月21日、病気の感染懸念や動物虐待、渋滞の悪化を理由に路上の猿回しの取り締まりに乗り出す方針を表明。猿使いには補償として1匹当たり100万ルピア(約9千円)を支払い、職をあっせんするとして、翌日から摘発を開始した。押収したサルは州保健局で健康診断や予防接種を受けた後、南ジャカルタのラグナン動物園に送られる。
州は、動物の虐待について定めた刑法の条項や動物の感染症について定めた州条例を摘発の法的根拠としている。
サルは肝炎などの病気を持っており、人間に感染する場合がある。州保健局の獣医ファレンティナ・アスウィンドラストティ氏は「無秩序な路上での猿回しは危険だ」と指摘。また、猿回しは「動物の虐待」として動物保護団体などから批判を浴びてきた。
◇「きちんと補償を」
猶予期間なしに仕事を奪われた猿使いには戸惑いが広がる。東ジャカルタ・チピナンのカンプン・ジャンバタンに住むサリナさん(37)は猿使いの両親の元に生まれ、3歳から猿回しを始めた。現在は地域の猿使い12人をまとめる。
路上ではなく、子どもの誕生会などパーティで猿回しをしてきた。テレビドラマの出演経験もある。それで1日15万〜20万ルピア稼いできたという。
州の決定に従うとしているが1匹250万〜300万ルピア(約2万3千〜2万7千円)で買った大切な「商売道具」を100万ルピアでは売却できないとして、増額を要求。サリナさんは「夫も猿使いで、小さな子どもが2人いる。部下たちも家族がいる。補償金の支払いと仕事のあっせんはしっかり責任を取ってやってほしい」と語気を強めた。
猿回しは、中部ジャワ州や西ジャワ州を中心に、オランダ統治時代から存在すると言われる。マスクを被せたり、服を着せたサルを三輪車に乗せて引っ張るなどする姿が子どもを中心に楽しまれており、観賞後にお金を渡す習慣がある。
■「哀れみで払う」 「芸と言えない」 市民は一掃支持
「芸がすごいからお金を渡すのではない。サルがかわいそうだから」。デパート店員のスリさん(32)は猿回しが続いてきた理由をこう説明する。
市民の間では、猿回しの一掃を支持する声がほとんどだ。建設業のアフマド・ハルタディさん(26)は「私はインドネシアの猿回しを文化だとは思っていない。鎖を首に巻き付け、無理矢理動かすこともあり、芸とは言えないから」と言い切る。
運転手のヘルマンさん(49)は「人間の都合に振り回されたサルの保護が一番。その次に猿使いへの補償。猿回しの文化は動物園で守っていけばいいんじゃないか」と語った。(堀之内健史、写真も)