マラッカ海峡に橋を マレーシアが協議再開提案 インドネシア「まずは国内インフラ」
計画が止まっていたインドネシアとマレーシアを結ぶ巨大な橋の建設についてマレーシア側が協議の再開に意欲を示している。東南アジア諸国連合(ASEAN)は、2015年の経済共同体(AEC)創設を控え、域内の連結性強化の必要性が高まる中、インドネシアにとっても大陸とつながる橋は重要だが、まずは脆弱な国内のインフラ整備を優先したいとして消極的だ。
公共事業省幹部によると、先月タイで開かれた第10回インドネシア・マレーシア・タイ成長三角地帯(IMT―GT)知事フォーラムでマレーシア側が議題に挙げた。マレーシア・マラッカ州のトゥルック・ゴンとインドネシア・リアウ州ルパト島を結ぶ48.7キロが橋部分になり、スマトラ島ドゥマイまで全長120キロの高速道で2国間を結ぶ構想だ。現時点では世界で10位以内の長さの橋になる。
橋建設に前のめりなのはスマトラ島を経済圏に組み込みたいマラッカ州政府だ。観光地のマラッカはインドネシア人観光客を呼び込みたいほか、複数のマレーシア企業がスマトラ島でパーム農園を保有、マレーシアに輸出しており、橋ができることで運送時間やコストの削減が見込める。スマトラ島の空港とマラッカの空港に直行便があり、ドゥマイとは船の定期便が運航。ドゥマイ周辺では、北スマトラ州メダンやジャカルタなど国内の大都市より近いため、マラッカを仕入先にしている行商人も多い。
マラッカ州はすでに事業計画と建設の統括会社を選定し、事業費は140億ドル(1兆4700億円)と見積もっており、統括会社幹部によると連邦政府の認可待ち。事業費のうち、85%は中国輸出入銀行が融資するという。
一方でインドネシア側はまだ国内インフラが整備されておらず、マレーシアとスマトラ島が陸路でつながれば、資本がマレーシアに流れるとして及び腰だ。ハッタ・ラジャサ経済担当調整相は5月、「まだ国内経済が(島しょ間で)うまく統合できておらず、橋を造るとマレーシアに資源を取られてしまう」と警戒感を示し、ジャワ島とスマトラ島を結ぶスンダ大橋など国内のインフラ整備を優先する見解を示している。
ただ経済統合が目前に迫る中、橋はマレーシア経済だけでなく「アジア全体との結びつきを強めるため、重要性は理解している」(公共事業省幹部)とのジレンマもある。
計画は1995年にマレーシアのマハティール首相(当時)がスハルト大統領(同)に提案。実現化可能性調査(FS)が実施されたが、アジア通貨危機や環境への悪影響懸念で中断していた。(堀之内健史)