憲法裁長官、現行犯逮捕 首長選裁判で収賄 権力分立の中核機関 汚職撲滅委

 中部カリマンタン州グヌンマス県知事選結果への不服申し立てに絡み、当選した現職知事側から賄賂30億ルピアを受け取ったとして、汚職撲滅委員会(KPK)は2日夜、南ジャカルタの政府高官宿舎で、アキル・モフタル憲法裁判所(MK)長官(52)を現行犯逮捕した。3日までに同長官に絡む贈収賄容疑の拘束者は計7人に上った。スハルト独裁政権崩壊後の憲法改正で設置され、権力分立の中核機関として民主化を先導してきた憲法裁のトップの汚職が発覚したことで動揺が広がっている。
 KPKによると、アキル長官は3日午後10時ごろ、政府高官公邸が並ぶ南ジャカルタのウィディヤ・チャンドラ通りの長官宅で、中部カリマンタン州選出のハイルン・ニサ国会議員(ゴルカル党所属)と実業家から約30億ルピア相当の現金を受け取った。
 同県では先月4日に県知事選挙が実施され、現職のハンビット・ビンティ知事(闘争民主党=PDIP=公認)が当選。敗北した対立候補(民主党・グリンドラ党公認)が選挙結果の無効を求めて憲法裁に提訴、今月4日に審理が開かれる予定だった。ハイルン議員は所属政党ではないが、自身の選挙区で、別の政党公認候補であるハンビット知事の便宜を図ったとみられる。
 内偵を進めていたKPK捜査員が長官宅に立ち入り、現場にいたアキル長官ら3人の身柄を拘束。ハンビット県知事ら2人は中央ジャカルタ・プチェノンガンのホテルで逮捕した。
 さらにKPKは3日、南ジャカルタ・クニンガンで、バンテン州ルバック県知事選の訴訟に絡み、アキル長官に贈賄した疑いがあるとして、同州知事の弟ら2人を拘束した。
 アキル長官は1999年から月星党(PBB)、2004年から移籍してゴルカル党の国会議員を務め、ハイルン議員は同僚だった。09年に憲法裁判事、今年4月に憲法裁長官に就任したばかり。

■初代長官「死刑を」
 アキル長官逮捕を受け、憲法裁は3日、マーフッド前長官やバギール・マナン元最高裁長官らで構成する査問委員会を設置すると発表。KPKの汚職捜査とは別に、同委が長官としての倫理や職責を問い、懲戒処分を検討する。
 憲法改正審議の中心人物の1人で、憲法裁設立案をまとめたジムリー・アシディキ初代長官は、アキル長官の収賄に怒りを露わにし、「KPKは超法規的措置を講じ、死刑を求刑すべきだ」と訴えた。アキル長官の前任者のマーフッド氏は「憲法裁を解散させたい心境だ。査問委が協議し、アキル長官への懲戒処分を決める」と説明した。
 ユドヨノ大統領は「国民は怒りと驚きを感じている。憲法裁は強力な権限を持つ機関。長官逮捕は民主国家インドネシアの根幹を揺らがせる事件だ」と懸念を表明、KPKに事件の全容解明を求めた。(小塩航大)

◇憲法裁判所
 スハルト政権崩壊後の憲法改正で設立が決まった司法機関。最高裁判所とは別体系で、大統領の罷免、違憲立法審査、選挙結果の有効性の判断など強い権限を持つ。判事は政府、国会、最高裁が各3人の候補者を選出し、国会の適性検査を経て決定される。03年8月に始動し、初代長官はインドネシア大法学部教授で、ハビビ元大統領補佐官などを歴任したジムリー・アシディキ氏。アブドゥルラフマン・ワヒド政権で法相や国防相を務めたマーフッド氏を経て、今年4月、アキル・モフタル氏が3代目長官に就任した。

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