工学分野で産学連携 共同研究や人材育成促進

 「ASEAN(東南アジア諸国連合)工学系高等教育ネットワーク事業」を推進する国際協力機構(JICA)とインドネシア教育文化省が産学連携の強化を図っている。インドネシアの主要国立4大学工学系学部が企業に研究内容を紹介する「研究室ダイレクトリー」を作成。ASEAN域内で遅れをとるインドネシアの大学と日系企業の共同研究や人材育成など協力関係構築を後押しする。
 ダイレクトリーはインドネシア大(UI)、バンドン工科大(ITB)、ガジャマダ大(UGM)、スラバヤ工科大の4大学を紹介。各種研究テーマごとに研究室を分類し、各研究者の経歴や研究施設の概要もまとめた。初刷200部。インドネシアの大学との共同研究を視野に入れる企業のパートナー探しに役立ちそうだ。
 18日には南ジャカルタのスルタン・ホテルで、JICAと教育文化省がセミナーを共催。日イの企業関係者や大学関係者200人が参加し、インドネシアの企業と大学が工学分野での共同研究や人材育成で産学連携を促進する方法を話し合った。
 科学技術者に研究費を助成する財団を持つ東レ・インドネシアの大河原秀康社長は「日系企業はASEAN地域での研究拠点設置に関心が高い」と述べ、「世界との競争で生き残るためには高品質な『インドネシア・ブランド』の商品を生み出すことが重要。そのためには産学連携や政府の支援が鍵となる」と強調した。
 産学連携強化の背景には、高い技術力や人材を持つ工学系学部と資金力や販売網を持つ企業との連携を促し、国際競争力を高める狙いがある。高成長を続けるインドネシアだが、現在は輸入超過で貿易赤字に転落。2015年のASEAN経済共同体(AEC)創設で貿易自由化による他国との競争激化が予想され、製造業や最先端技術分野などを輸出型産業の根幹に成長させることを目指す。

■大学の意識改革を
 しかし、連携強化にはインドネシアの大学の意識改革や産業界との効率的なマッチングが急務となる。文部科学省からインドネシア教育文化省へ派遣されているJICAの和氣太司アドバイザーは「インドネシアの大学は研修など人材育成での連携への関心は高いが、タイやベトナムなどと比べて研究開発分野での産学連携には積極的でない」と指摘する。
 大学幹部の間にも、研究成果を産業界に発信する能力が低いとの認識はある。UGMのドゥイコリタ・カルナワティ副学長(連携担当)は「利潤追求の企業と連携したがらない文化がインドネシアの大学にはある」と説明する。
 しかし、近年は大学主導で産学共同の研究事業や企業側に研究情報を提供、商品化を実現するなど積極的になりつつある。ダフラン・イスカン国営企業担当国務相が国営企業幹部を多数連れ同大を訪問した際は、同大が各種研究を紹介し、その場で同相が選んで事業化を即決したこともある。
 ITBのワワン・グナワン副学長(調査開発担当)は、カナダのリサーチ・イン・モーションが携帯電話「ブラックベリー」をインドネシアで展開するにあたり、ITBが連携して共同開発に取り組んだと説明。大学が企業のニーズに合致した研究を促進する必要性を強調した。(小塩航大)

◇ASEAN工学系高等教育ネットワークプロジェクト 
ASEAN10カ国の工学分野で中核を占める主要大学の研究能力の強化と人材育成を図るため、日本の11大学、ASEANの19大学が参加して2001年に調印。教員の能力向上や工学系ネットワーク強化を経て、優秀な工学系人材の輩出を目指す。ASEANへ進出する日系企業との共同研究や人材供給などで波及効果を狙う。インドネシアからはガジャマダ大が地質工学、バンドン工科大が機械・航空工学で幹事校を務め、今年からインドネシア大とスラバヤ工科大が新たに加わった。

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