山中で眠るスポーツ施設 民主党汚職疑獄の震源地 「ハンバラン」はいま
西ジャワ州ボゴール県スントゥールの山中に、ユドヨノ政権を揺るがした汚職疑惑の震源がある。休眠するハンバラン複合スポーツ施設。改革の旗を振った民主党政権の10年が残すであろう負の遺産を訪ねた。
ジャゴラウィ高速道をスントゥール出口で降りた。ゴルフ場、宅地開発地、大型スタジアムを横目に勾配のきつい道に入る。アブラヤシが茂る高い丘が見えた。
ハンバラン丘は建設ラッシュに湧いている。国軍関連施設「セキュリティセンター」には建設中の建物がいくつもあり、活気がある。だが、建設作業員に道を尋ねると、「ああ、あのバンクルット(破綻)した所ね」と返ってきた。その後も村民が同じ言葉を繰り返す。どうも雲行きが怪しい。
荒涼とした建物群が見えた。民主党の幹部1人が確定判決を受け、元閣僚1人、前党首1人を容疑者にし、さらに国会議員15人にも疑惑の目が向けられる汚職疑獄の爆心地は、ひっそりとして空っぽだ。黒くさびたむき出しのワイヤー。骨組みは損壊し、階段は何もない空間をつなぐ。紛れもなく廃墟だ。
総額2.5兆ルピア(約225億円)の事業にしては建物群は小ぶりで、事業予定地の31ヘクタールの一部しか使っていないという。先週、会計検査院が同事業の国家損失額を4710億ルピアと発表。こぼれたお金の分だけ施設が小さくなったのではないか、と勘ぐりたくもなる。もともとは2004年に開始した予算額1250億ルピアの国際体育教育所建設計画が、国会の審議を経て20倍規模に膨らんだ。ハンバラン丘が選ばれたのは「安くて近くて国有地」だったからという。
敷地前には掲示板がある。「工期752日、2010年12月10日〜2012年12月30日」。しかし、この工期は守られなかった。12年5月に地盤沈下で建物2棟などが損壊し、政府が事業を止めたからだ。
「そのときから、1年以上ずっと放置されている」とある住民は言う。「破綻したんだ」。施設を警備する警備会社は取材を拒否。村の外部の人間が来て、建物を管理しているので、村民は良い印象を持っていないようだ。
村民は丘に広がる畑で、コメ、シンコン(キャッサバ)などを育てる農家。コンクリート用の石灰岩の採集を副業にしている世帯も多い。土地の値段は1平米20〜30万ルピアと以前の数倍に跳ね上がり、デベロッパーらが土地の買収のために村に訪れるという。「それでも売りたがらない人は多い」
事業再開を願う住民もいるようだ。「早く建設を再開してほしい。施設ができれば、経済的に村も豊かになれる」。村の小学校、建設中の村役場の設備はとてもきれいだ。丘の中腹では高速道路出口への接続道路の建設が始まったが、肝心の施設は眠ったままだ。(吉田拓史、写真も)
◇ ハンバラン汚職事件
西ジャワ州ボゴール県スントゥールのハンバラン村に複合型アスリート養成所を造る公共事業に絡む汚職事件。民主党のアンディ・マラランゲン青年スポーツ相、アナス・ウルバニングルム党首は容疑者に断定され、近く逮捕が取り沙汰される。同党元幹部は汚職資金が両氏の10年民主党党首選の選挙資金に流れたと主張した。