「私はもらってない」 現場で混乱、支給遅れる 直接現金給付
7〜8月分の直接現金給付(BLSM)の給付が対象の1550万世帯の30%に留まっている。現場でさまざまな不備が発覚、対象から外れた庶民が各地でデモをするなど混乱。燃料値上げに伴う物価上昇の貧困層に対する影響を和らげるという給付の大義名分が揺らいでいる。
南ジャカルタ・テベット郡マンガライのヌルハヤティさん(43)は「お金をもらっていない」と嘆いた。夫は胸の病気で9カ月前に死去。2人の子どもを縫製工場での仕事で支える。4メートル四方の一間を月30万ルピアで借りている。2階建ての上階には他の住民が分け合っている。「隣組長に聞くと『村役場に聞いてみろ』と言う。村役場に聞くと『郵便局に聞いてみろ』と言われた」。たらい回しにされ、結局誰に文句を言えばいいのか分からない。
ヌルハヤティさんが住むのはチリウン川の真横にある集落。狭い違法住宅が軒を連ね、一つの住宅に数世帯が同居する。家々に挟まるように共用トイレがあり、しばしば洪水に見舞われる。住民のほとんどは低所得者層・貧困層だ。
その中でもらえる人とそうでない人に分かれたため、不満が溜まっている。無職のヤネウシさん(80)は子どもの仕送りの80万ルピアで1カ月をやりくりする。「ブラックベリーを持っているお金持ちが、BLSMをもらったと聞いた。なのにどうして私がもらえないのか」と憤った。現金給付をめぐる情報は錯綜しており、いろいろなうわさが飛び交った。なかには隣組長が縁故で給付資格者を選別しているというものもあった。直接現金給付は2005年、06年、08年、09年に実施された現金給付(BLT)と同じ政策だが、この地域では今回が初めてのようで、主婦らは「現金給付という政策は今回が初めて聞いた」と口をそろえる。
サントソ隣組長はこう説明する。「中央統計局(BPS)の統計を基に(給付資格を証明する)社会保健カード(KPS)が配布されたが、その統計が正しくないようだ。そのせいで貧しいがKPSを受け取れない人がたくさんいる」
BPSの今年3月の貧困調査によると、全国の貧困率は11・37%、ジャカルタ特別州の貧困率は3・55%で全国最小だが、村落には住民登録をしていない人も住んでいる。その人たちは統計の「貧困層」にすら含まれていない。
給付は遅れている。ドゥティックコムによると、給付達成率は8日午前9時時点で29・2%。全国で1千万世帯以上がまだ受給していない。地元メディアは全国各地でデモが起き、隣組長が受給者に「手数料」を要求していることなどを報じた。ガマワン・ファウジ内相は、本来の対象にもかかわらず、給付を受けられない人がいる状態を「現場での連携がうまくいっていない」と認めた。政府は給付の運用改善を目指していくという。洪水村落の対岸に住むジョンさん(77)は「統計は正確ではない。2年前のものだし、世の中がどうなっているかを把握してない。来年には選挙がある。票を取ろうとする政党がやっている政策だ」とため息をついた。(吉田拓史、写真も)