「政党より人物」浮き彫り 浮動票がジョコウィに 総選挙・大統領選の世論調査
国立インドネシア科学院(LIPI)が27日に発表した世論調査によると、来年の総選挙・大統領選で、有権者が政党より人物本位で候補者を選ぶ傾向が鮮明になっている。「庶民に近い」と人気のジャカルタ特別州のジョコウィ知事が大統領候補支持率で首位となり、浮動票の受け皿になっている構図が浮き彫りになった。
「議員、大統領候補が正直で公正だと確信しているか」との問いに「確信している」との回答が48.2%だったのに対し、「確信していない」との回答は40.2%に上った。支持政党の項目では、「無回答」が最大の31.1%で、政党トップの闘争民主党(PDIP)の14.9%の2倍以上となった。さらに投票基準では「議員候補本人」が58%で「政党」の30%を上回り、人物重視が明確になっている。
人物重視の背景には、相次ぐ汚職事件による政党不信がある。1998年のスハルト政権崩壊以降、歴代の政権が独裁政権の悪習とされた汚職・癒着・縁故主義(KKN)の払拭を政治目標に掲げたが道半ば。民主化以降に結党し、既成政党より清潔な印象だった民主党、福祉正義党(PKS)の前党首2人に司直の手が伸びた。改革の時代に誕生した汚職撲滅委員会(KPK)が、捜査を強化したため汚職が顕在化し、政党のイメージ悪化につながっている。
■高支持率も慎重姿勢
そこで政党の代わりに人気を集めるのが、ジョコウィ知事だ。LIPI調査でも、追走するプラボウォ・グリンドラ党最高顧問を8.4%離して首位。知事が問題の地域に直接足を運び住民と対話する様子が連日メディアで伝えられ、「人々に目配りできるまれな政治家」と受け止められている。ただ、本人は大統領選出馬について「ジャカルタの行政に集中する」と否定してきた。所属する闘争民主党のメガワティ党首が出馬する可能性があることに配慮しているとの見方がある。
■イスラム系が衰退
調査では、イスラム政党の衰退傾向も改めて明らかになった。国内最大のイスラム社会団体を母体とする民族覚醒党(PKB)が政党支持率5.6%と踏みとどまったが、イスラムを基盤にした政党の開発統一党(PPP)、PKS、国民信託党(PAN)は2%台にとどまった。
また総選挙後には少数政党時代を迎える可能性もある。総選挙では得票率3.5%未満の政党は国会議席を持てない「足切り」規定を適用する見通し。世論調査の政党支持率を得票率として算定すると、国会の政党が五つにまで絞り込まれ、09年総選挙後の9政党からほぼ半減する。
LIPIのシャムスディン・ハリス上級研究員は「政党不信は今年開かれた多くの州知事選でも明らかだ。政治家はキャンペーンでは多くの公約を掲げるのに、職に就くとそれを実行しない。有権者の汚職への失望は深く、来年の総選挙では多くの棄権票が出るだろう」と分析。来年の総選挙については「メガワティ党首が出るなら、ジョコウィ氏は州知事に徹するだろう。プラボウォ氏の党は小さく、大統領選出馬の要件の国会議席の20%の推薦を確保できないのではないか。民族主義系の政党が総選挙に勝つのは確実だが、これまで民主化後3回の総選挙でPDIP、ゴルカル党、民主党と勝者が変わったように、選挙は水物だ」と指摘した。(吉田拓史)