シンガポールで史上最悪に インドネシア発の煙霧 外交関係にも影響
インドネシアでの野焼きを原因とする煙霧で、シンガポールの大気汚染を示す指数が連日、観測史上最悪記録を更新し、市民生活に大きな支障をきたしている。同国やマレーシア首脳は原因になっているプランテーション会社に関する情報の開示を求めたり、支援を申し出たりしているが、インドネシア側はいずれも拒否。煙霧は毎年のように発生しているが、今年は被害の拡大にともない、近隣2国との関係にも影を落としている。
シンガポールは1997年以降、大気汚染指数(PSI)を計測。PSI201〜300を「非常に不健康」、300以上を「危険」としているが、21日午前11時には400を記録した。地元英字紙ストレーツ・タイムズが3時間ごとのPSIをホームページ上に掲載するなど、市民の間でも危機感が高まっている。
リー・シェン・ロン首相は20日、可能な限り屋内で過ごすよう国民に呼び掛けるとともに、ユドヨノ大統領へ書簡を送り「深刻な懸念」を伝達。インドネシアの一部当局者が、シンガポールやマレーシアなど自国外の企業が違法な野焼きに関与していると指摘していることについて、根拠を開示するよう改めて求めた。
■支援申し出るも拒否
一方のインドネシア側は反発している。英字紙ジャカルタ・グローブによると、アグン・ラクソノ公共福祉担当調整相は同日、「シンガポールは子どものように振る舞うべきではない」と発言。シンガポールメディアがこれを大きく報道すると、シンガポール国際問題研究所のサイモン・テイ会長もブルームバーグTVに「多くの不満と怒りが国内に満ちている」と応酬を展開した。
リー首相は同日、「必要なことは厳しい言葉のやりとりよりも実際に行動することだ」と強調し、原因企業を明確にするためシンガポール側の衛星データを提供することを提案。マレーシア側も消防士派遣を申し出たが、 インドネシア林業省のハディ・ダルヤント事務次官は「十分な資金と資材があり、直ちに外国の支援が必要だとは思っていない」としてはねつけた。
■有効な対策見つからず
譲歩の姿勢をみせないインドネシアだが、沈静化に向けた有効な手だてはない。気象物理庁は、まとまった雨は28日まで降らないと予報しており、ハディ事務次官も「雨が降らない限り、被害を抑えるのは難しい」と認めた。同省は大気中に雨粒の核になる物質を散布することで人工的に雨を降らせることも検討していたが、準備に少なくとも2週間を要するとして、実施は見送っている。技術的に人工降雨が成功するかどうかははっきりしていない。
シンガポールの南洋理工大学のバリー・デスカー氏は「ジャカルタは煙霧の影響を受けていない。燃料値上げ問題に気を取られている中央政府にとって、対策の優先順位は低い」と指摘している。
インドネシア林業省によると、リアウ州だけで100カ所以上の火災が確認されている。うち80%が農地で、20%が森林地帯。原因になっているプランテーション企業10社を特定したが、会社名は公表していない。
政府は農業で火を使うことを禁止しているが、実際はほとんど黙認されている。毎年6月ごろに始まる乾期に合わせ、盛んに行われる火入れで、火が林野や泥炭層などに移り、煙霧の原因になっているとされる。(道下健弘)