【若い大国、民主主義どこへ 民主化15年を聞く】(2) 声を上げる市民たち 倉沢愛子・慶応大名誉教授

 スハルト政権下の95年から農村やカンプン(路地裏に存在する密集居住区)の人々を対象に調査してきた経験から、過去15年の民主化の進展を積極的に評価したい。
 スハルト政権下では、国家5原則「パンチャシラ」に基づいた道徳教育(P4)への参加が国民に義務づけられた。英知ある指導者が民を導くという考え方が強く浸透し、自己主張を控え、多数派への追随が良しとされた。今ではインタビューをしても自分の考えを生き生きと述べる人が増え、「自由になった」と感じる。
 99年と2004年の総選挙では、自らバスをチャーターして支持政党の集会へ参加するカンプン住民も出たほどで、政治熱の高まりを感じた。09年の総選挙ではその熱が冷めた感もあったが、ジョコウィ知事が出馬した12年のジャカルタ知事選は再び盛り上がりを見せた。自分の一票に意味があると住民が実感し始めたからだろう。
 社会の変化で他に印象に残ったことは、ごみ処理など環境へ配慮するカンプン住民も増えたことだ。その背景には情報化時代でインターネットなどからの情報量が増えて、外からの刺激にさらされるようになったことがあるだろう。
 民主化のネガティブな副産物としては、スハルト政権崩壊直後、強権が除去されて社会の流動化が高まり国内各地で暴動が発生したことが挙げられる。民主化との2本柱で進められた地方分権も急ぎ過ぎの感があり、一部見直しの空気も出ている。
 私が継続的に調査しているジョクジャカルタ特別州の村でスハルト政権崩壊後初めて実施された村長選挙では、現職と対立候補が大接戦し、破れた対立候補側が敗北を認めず、村内でしこりが残った。
 民主化のジレンマとも言えるのが労働争議だ。過去15年で経済力も増して消費大国になったが、労働争議での要求が過熱し、企業の撤退が進めば、経済成長に水を差す可能性もある。
 今後の民主化の見通しとしては、汚職問題の顕在化と、それによる市民の政治離れが心配だ。ただ、一般市民の政治参加が高まり、野党も国会で活発に議論を繰り広げられるようになったことからも、民主主義は機能していると言える。試行錯誤は当分続くだろうが、将来的には安定化に向かうだろう。(聞き手・宮平麻里子)

◇くらさわ・あいこ インドネシア社会史、現地の生活とフィールドワークを通じ、開発政策の中で変容する庶民の地域生活を分析。『消費するインドネシア』など著書・編著書多数。

【若い大国、民主主義どこへ 民主化15年を聞く】(1) 加納啓良・東京大名誉教授
【若い大国、民主主義どこへ 民主化15年を聞く】(3)川村晃一・日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所地域研究センター研究員

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