【火焔樹】 インドネシアの心
インドネシアの人たちの公共でのマナーが悪い。エレベーターでは、われ先へと降りる人を押しのけて中へ乗り込む、並ばない、乱暴な運転、ごみのポイ捨てなど、例を挙げたらきりがない。現在の日本では、インドネシアで起こりうる不快な人々の態度は確かにあまり多くは見られない。
こんな話がある。ある日本の会社の社長さんが泊まっていたホテルの女性従業員が裸足で接客しているのを見て、インドネシアの後進性を説き、自分があたかも先進国からやってきた常識ある人間というような発言をした。その従業員は、先進国のお偉いさんを誠心誠意もてなそうと、目上の人や大事なお客様に応対するときは裸足で接するというジャワの古い習慣を忠実に守っただけのことだった。しかし、社長さんはそれを後進性の表れと決めつけてしまったのである。
この話には続きがあり、ホテルのマネジャーはこの社長さんに抗議をしたそうである。「ホテルのロビーのような公の場に出るときは、ステテコのような『下着姿(celana dalam)』で人前に出ることは慎んでください」。今は亡きジャーナリストのアリフィン ・ベイさんが書いた「インドネシアの心」に出てくる有名な一場面だ。
40年ほど前の話で、今でこそステテコ一枚で人前を歩く人がいなくなったのは、日本も外国人と接するようになり、批判を受け、反省し、ようやく一歩進んだ人として相応しい態度を身につけてきたからであろう。
インドネシアには「tata krama(マナー)」や「sopan santun(礼儀作法)」といったインドネシア独自の習慣がある。しかし悲しいかな、一部の成長と言われるスピードについていけず、どうして良いかわからないのが実情だろう。それは、ホテルのロビーで下着一枚で歩いた社長さんとごみをポイ捨てして歩く今のインドネシアの人たちと変わらない。
時代の流れとともに日本人独特の礼を発展させ現代に至ったことは、将来のインドネシアも独自の習慣を開花させ得るということである。そんなときが来るのが楽しみだ。(会社役員・芦田洸)