ヒーロー「ビマ」創出  日イ合作で試行錯誤 石森プロの早瀬マサト氏

 インドネシアの特撮ヒーロー番組として、日イ合作「ビマ・サトリア・ガルーダ」が6月30日から、民間テレビ局RCTIで放映開始される。核となる原作は、平成仮面ライダーシリーズを手掛けてきた石森プロの早瀬マサト氏(48)。インドネシアのスタッフたちと試行錯誤しながら、ビマという新しいヒーローを創り上げている。

 「香港やフランスには行ったことがあるが、インドネシアも東南アジアも初めて。人も車も多く、バスに人がたくさん乗っている。ものすごいバイタリティを感じる」
 インドネシアでスーパーヒーローを生み出すにあたり、発案者で制作会社役員のレイノ・バラック氏などからアドバイスを得た。「インドネシアで好かれている動物は何か。好まれるカラーリングは何か。意見をすり合わせながらデザインを仕上げていった」
 国を越えても、正義が悪に勝つというストーリーは変わらない。ここをしっかりと押さえた上で、新しいヒーロー像を追求していく。「私は常に石ノ森章太郎が今生きていたら、どういうデザインをするだろうか、ということを念頭に置いている。日本でやっている平成ライダーのノウハウを使って、それをインドネシア風にアレンジする。日本ではできないロケーションや撮影もあり、そこからインドネシアらしさが出てくれば」と期待する。
 作業はエピソードごとに手分けして進める。経験をもとに仕上げた原案をインドネシアの脚本家に渡し、インドネシアの習慣や子どもたちが興味のあることなどを盛り込んでいく。オートバイの修理工場で働く主人公というのも、車はまだ買えないが、オートバイは必需品となった中間層を代表する。新興国インドネシアならではの設定だ。
 しかし、初めての試みでもあり、日イ双方とも手探りの作業が続く。日本とはまったく異なる感覚に驚かされることもある。「例えば、主人公の正体がヒロインにばれてしまうかもしれない、というシチュエーション。もしくは主人公が1人で悪に立ち向かっていこうというシーン。日本なら一波乱起こったり、戦う決意をしたりと、それだけで1エピソードできてしまうところだが、インドネシアではオッケーと普通に受け止めてしまう。これは国民性なのかもしれないが、ショックだった。私からはドラマを展開する部分を提案しているが、逆にインドネシア側は混乱しているのかもしれない」

■すれた子どもたち

 仮面ライダーシリーズは、インドネシアで大ヒットした実績がある。1994〜95年に放映された仮面ライダーブラック計68話の平均視聴率は24・2%、平均シェア率は79・8%。95年に続けて放映された同スーパー1の計46話は同14・9%、同53・8%。日本から既製シリーズを持ってくればある程度の成功は見込める。
 しかし、あえて巨額の制作費も特殊技術も必要となるインドネシア初の本格的な特撮ヒーロー番組を制作しようという熱意に動かされた。制作費はインドネシア側の全額負担だ。「普通のドラマなら俳優だけでよいが、変身ものでは着ぐるみがいる。そしてその中に入るスーツアクターや、さらにCG(コンピューターグラフィックス)、爆発などの特殊効果も必要。コストは何倍にもなる。特撮番組を作るというのは本当に大変なことだ」
 現在、日本の特撮番組が置かれている状況も厳しい。「少子化という問題もあるが、子どもがませている。私が小学生のころは、高学年でも特撮番組を見ていた。それが今では小学校に入るころには特撮番組を馬鹿にしてしまう。興味のあるものが他にいっぱいあり、ゲームなどに時間を費やしてしまう」
 現在の視聴者層は3歳から6歳までのわずか4年。すぐに卒業してしまう。2000年ごろ、主人公を演じたオダギリジョーが話題になり、「お母さんたちが飛び付いてくれて、イケメンブームになった」こともある。あとは特撮マニアたちが支えている。
 子どもの数が圧倒的に多いインドネシアで、新しいヒーローを生み出してみたい。最多の漫画を出版した漫画家としてギネス・ブックに認定された師匠亡き後も、仮面ライダーを継承してきた漫画家として、後世に残る仕事をしたい。
 「テレビ番組は一期一会だった。今はDVDなどで見られるが、歳をとって見返しても、意外と大まじめに作っていたんだと思ってもらえる作品を残したい。ビマは成功させなければならない。失敗したら、インドネシアで特撮番組が作られることはなくなってしまう。インドネシア側がノウハウがないところをアイデアで乗り切り、新しい映像になれば、これほど幸せなことはない」(配島克彦、写真も)

◇石森プロの早瀬マサト氏
 1989年、石ノ森章太郎の作画アシスタントとして石森プロに入る。2001年以降、アギト、龍騎、555、響鬼、カブト、電王、キバ、ディケイド、G、W、オーズと一連の仮面ライダーシリーズのキャラクターデザインを担当。サイボーグ009、シージェッター海斗などの漫画や小説なども発表している。

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