【下請けサバイバル】（２）組合編　「人件費安い」は通用せず

　インドネシア経済への地元経営者の認識が「上り坂」から「踊り場」に変化する中、経験豊富なベテラン日本人経営者に課題と解決方針を語ってもらう座談会の２回目。昨今経営者を悩ます労働組合問題が話題に上った。

　Ａ「第２回からいきなり核心って感じなんだけど、組合問題から始めたい」
　Ｂ「うちの会社もすったもんだがあってね。ベア要求でちょうど話し合ってるところだけど、次は福利厚生になるのは目に見えてる」
　Ａ「中小企業は支出に占める人件費の割合が大きいからね。余裕のある大企業なら人件費も売り上げに占める割合で、直接製造に携わる従業員で保険を入れて３％が普通だった。製造に直接従事しない従業員に対して支払われる間接人件費も１０％強。大企業なら仮に最低賃金が４０％上がっても２ポイント上昇した５％になるだけで、材料費などを調整すれば全く問題ない」

■企業の運営困難に
　Ｃ「中小の場合、直接人件費だけで売り上げに占める比率が３割に上る企業もあって、間接人件費も含めれば、４０％になるケースもある」
　Ｂ「これで福利厚生も要求されれば、企業の運営自体が困難なレベルになっちゃうね。安易に『インドネシアの人件費は安い』って理由だけでこっちに進出するとこれから５年持たない」
　Ｄ「製品価格の値上げが困難で原材料の価格が上がる『製品安の原料高』の状態だと、経営努力だけでこの苦難を乗り切るのは正直しんどい」
　Ａ「僕は大企業出身だから分かるけど、購買って前後期の２回値下げの圧力をかけるんだよ。それに耐えられなくて撤退する企業も出てくるんじゃないか」
　Ｂ「人件費の上昇が不可避となると省人化の設備投資の手段をとるのも有効か。品質のばらつきも減らすことができるし、長期的に戦略を練れる体力のある企業ならできる」

■ストで納期遅れも
　Ｃ「組合問題で一番困るのは、ストライキで納期が遅れること。取引先もシビアだから転注されるケースもある」
　Ａ「周囲の話も総合すると、インドネシアのローカル企業は狙われるのは少ないみたいだね。労働組合の問題はローカル企業とのコストの差に直結するから競争力でやられちゃうところも出てくるよ。余談だけど、インドネシアでは、社長がアンダーテーブル（そでの下）を使って納税を逃れるところもあるとも聞く。その辺りもインドネシアらしい『競争力』といったら怒られるかな」
　Ｂ「実際去年のブカシの最低賃金交渉で高速道路を労働組合に占拠された時、先例ができたなと正直思っちゃった。警察も逮捕者を出さなかったし。チカンペック工業団地がＧＤＰ（国内総生産）に及ぼす影響は大きいから、プレッシャーにはなる」

■合弁会社がおすすめ
　Ｃ「ただインドネシアで商売する以上、公平な視点で見ればインドネシア人の待遇をいつまでも低いままにしておくわけにもいかないんだろうね。それを踏まえた上で、うちのようにジョイントベンチャー（合弁会社）はどうだろう」
　Ｂ「少し手前味噌な感じはするが、聞こうじゃないの」
　Ｃ「労働組合から突き上げられたＢさんには申し訳ないけど、これだけグローバル化って言われてて、全部日本人で幹部を占めようって発想が違うんじゃないかと言いたい。うちの場合で言うと、インドネシア人の投資家が30％くらい株式を持ってて発言権もあるから、組合にも狙われにくい。今後は『技術は日本、労務・税務はインドネシア』みたいなすみ分けが必要だと思う」
　Ｂ「それは大企業出身で人脈のあるＣさんだから言えるんで、コネもない企業は難しいでしょ」
　Ｃ「否定しないけど、日本企業が株式を５０％以上持ってると関係があまりよくならないケースが多いのも事実。やっぱり資本構成からグローバル化しないと信頼関係もできにくい。もちろん、聖人ぶるわけじゃないよ。お金の部分を全部任せるのはまずいのではないかという思いは私にもある。人件費にしても日本人の３分の１から４分の１くらいだし。おっと本音が‥」
　Ｄ「インドネシアのことわざで『金の卵を産む鶏で、卵は盗まれてもいいが、鶏がなくなると困る』というのがあるけど、多少理解できない点があっても、外国で経営する以上は仕方ないと考えるべきなのかな。ちょっとした問題があったとしても、会社がつぶれなければ事業は続けられるわけだし」
　Ｂ「俺だって今まで経営者としてインドネシア人の物の考え方の違いを肌で感じてきて、結局は基本的な考え方の違いが決定的だとは認識してるよ」
　Ａ「次回の経営編で詳しくその辺を話そうか」（赤井俊文　つづく、次回は１５日付７面で掲載予定）

◇座談会のメンバー
Ａ　電子機器メーカー社長、７０代（東ジャカルタ）
Ｂ　自動車部品メーカー製造担当取締役、６０代（ブカシ）
Ｃ　プラント向け工業部材の合弁企業社長、６０代（東ジャカルタ）
Ｄ　容器包装類メーカー社長、６０代（ブカシ）