【火焔樹】 自転車のスタンド
年々ひどくなる渋滞にうんざりして、自転車通勤を始めた。子どもたちが駆け回る下町の裏通りを颯爽(さっそう)と走り抜ける十数分が心地よく、気に入っている。
先日、自転車のスタンドが壊れ、運転中に常に下がってしまうようになった。駐輪はできるので特に不便ではなく、気にせずにいた。
すると、通勤途中で毎日何人もが「スタンドが下りてるぞ」と声を掛けてきた。コス(下宿)の住民、屋台のおばちゃん、道行く人、会社の警備員。そのたびに「壊れているんだ」と応じた。
確かにこのままだと危険だと感じ、修理しようという気になった。でも、毎朝多くの人が声を掛けてくれるのは思いのほかうれしく、直すのは少し心惜しい。(岡坂泰寛)