「思い、変えるきっかけを」 「ふるさとへの回帰進む」 放送作家の小山薫堂さん
「料理の鉄人」や映画「おくりびと」の脚本で知られる放送作家の小山薫堂さん(48)がこのほど、ジャカルタを訪れ、じゃかるた新聞の会見に応じた。老舗の日光金谷ホテルに新たな息吹を吹き込み、故郷・熊本のPRキャラクター「くまモン」をプロデュースするなど、閉塞感のある日本の社会で、多くの人の心を捉えるアイデアを提示し、放送作家の枠を超えた「ヒットメーカー」としても活躍する小山さん。自身が立ち上げた企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ社で、今後の事業展開に向けたヒントを得ようと来イした。
3泊の滞在だったが、熊本県人会メンバーや商社幹部などの在留邦人と意見交換し、自分たちが何をやっていきたいかを考えるようになったという。
「来る時は『何か面白い番組が作れそう』だとか、すごく漠然とした期待で来たが、儲かる儲からないではなく、われわれが財産として持っている知恵であるとか、今までやってきたことをジャカルタが良くなるために使えればすごくいいなと思った」
その一つとして挙げるのが、自身が発起人となって2007年に立ち上げた「東京スマートドライバー」。従来の取り締まり型のキャンペーンとは異なり、それぞれの人が持つ思いやりの気持ちをつなげ、共感を生み出すことで、首都高速道路の交通事故削減に貢献しようという取り組みで、現在は全国約30地域に広がっている。
「日本の場合は凝り固まった交通ルールができているが、ジャカルタではまだルールが未成熟であるが故に『こういうものなんだ』というようなことを当たり前にしていくと、実は意外と世界で最も交通リテラシーが高い都市になるかもしれない。『ハンドルを握る人の思いを変えるきっかけを日本人が作っていこうよ』というのは面白いのでは」とジャカルタ版の発足を提唱する小山さん。オレンジ社副社長を務める軽部政治さんも「社会インフラを整えるには何十年もかかるが、思いやりというのは今日からでもできる。ここの人は本当にやさしいし、ジャカルタの方がスマートドライバーがはまるかもしれない」と期待を寄せる。
■クールジャパンに「異議」
最近、日本の文化を海外に広めていこうと、インドネシアでも積極的に活動が進む「クールジャパン」に小山さんは懐疑的だ。
クールジャパンの活動を進めるにあたり、経済産業省の担当者が意見を求めようと小山さんを訪れた時のこと。「ヒヤリングに来たのはいいが、約束の時間に来ない。後日、『ありがとう』のメールぐらい送ってくるべき。日本人の魅力は、『どれだけ人を思いやるか』。それができていない人たちが、自分たちを『クール』と言ってプロモーションすること自体があり得ないと思う。ネーミングも、上から目線の日本文化発信という感じがする」と手厳しい。
■在外邦人が日本に発信を
震災の前年に嵐の「ふるさと」を作った小山さんは、東日本大震災以降、故郷への回帰という意識が日本人の間で顕著に高まっていると分析する。
「今、日本人一人一人が原点回帰のような、すごく謙虚な姿勢で自分の原点を 見つめ直すという作業が非常に増えている気がする。こちらに長くいる日本の方は、故郷への思いをきっと強く持っているだろうし、そっちの思い方がすごいピュアな感じがする。ジャカルタにいる日本人が日本の人に日本の良さを伝えるというやり方もあるのではないか」
日本人の故郷への思いを込め、自身が監督・脚本などを担当した熊本県のPRビデオ「くまもとで、まってる」もぜひ観てもらいたいと小山さん。市井の人々の日常を描いた作品は、震災翌日の公開を予定していたが、数カ月遅れて公開された後、アジアのショートフィルム映画祭で観光映像大賞に選ばれた。
「熊本のことを言っているのですが、何か日本人が『良かったなあ』と思う感じに仕上がっている。ジャカルタに住んでいる方が、日本が懐かしくなった時、恋しくなったときに見るときっといいんじゃないかなと思う」。(上野太郎、写真も)