【火焔樹】 快適な生活とは‥
ある日本の財団法人が日本へ出発する介護士候補たちに日本の生活習慣を教える授業を行っている。たまたまその様子を見学したとき、冷蔵庫の周りにみんなを集めてラップのかけ方を実演していた。「こんなことまで教えなければいけないの」と思うかもしれないが、インドネシアでは生ものでも何でもラップをせずにそのまま冷蔵庫に入れてしまう。
こういうインドネシアの習慣を、そのまま日本で行うとトラブルの元になりかねず、仕事先での印象も悪くなり、インドネシアの介護士はダメという評価にもつながりかねない。そういう意味で、この財団の試みは、草の根貢献の最たるものの一つかもしれない。
その昔、母が冷蔵庫に食べ物をしまうときは「お皿の上に同じお皿をさかさまにしてふたをするんだよ」と女中さんに教えていた。30年前のインドネシアではラップなど売られていなかったため、母が考え出した苦肉の策なのだ。この時の母の行動とこの財団の授業を通し、世界から注目を浴びる知恵と工夫を凝らした日本の便利なライフスタイルの真髄をみた思いだった。
何も日本の生活様式ややり方を押し付けるということではない。家事のみに関わらず、何が快適で、どうすればよくなるかを常に考ることは人々の最低限の義務であるということを、その義務を放棄するインドネシア社会の一部とそれを傍観するだけの自分や、賃金の安さだけを頼りにインドネシアへ進出しトラブルを起こす一部の組織をみて改めて考えさせられる。
日本とは勝手が違う異国の地で不便さを感じている主婦の皆さんがいれば、不便さをあげつらうだけではなく、そんな状況を逆手に取り、その対処や解決方法を真剣に考えてみてはどうだろうか。世界に誇る日本の主婦の素朴な発想やアイデアがとんでもないビジネスチャンスにつながっていくかもしれませんよ。(会社役員・芦田洸)