「初めて病院に来た」 医療無償化で患者殺到 ジョコウィ知事の目玉施策 「見切り発車」と批判も ジャカルタ
ジャカルタ特別州のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)知事が公約の目玉として、低所得者対象の無償医療制度を導入して約2カ月。指定病院には「初めて病院で治療を受ける」という患者が殺到している。一方で、病院側に設備不足や満床を理由にたらい回しにされた乳児が死亡する事件が問題視され、病院の受け入れ体制の整備を求める声が高まっている。
「256床ある3等室はもう満床。知事の指示で、2等室の50床を不足分に充てるが、すぐ一杯になるだろう」
中央ジャカルタの大統領宮殿の西約1キロにある州立タラカン病院。医師のセルヨト氏(50)は殺到する患者の対応に追われている。無料で治療を受けられる低所得者対象の「保健カード(KJS)」導入以降、1日当たりの患者数は600〜700人から1千〜1200人と約2倍に増えたという。
中央ジャカルタに住むフェルニカ・スピニさん(56)は「2カ月前、生まれて初めて病院に来た」と話す。以前から耳にできものがあったが、世帯収入は200万ルピア(約1万9千円)以下。病院に行くことなど考えられなかった。「通院するようになり、今はだんだん良くなっている」
北ジャカルタの州立コジャ病院でも、患者数は11月の1万2千人から1月には1万7千人まで急増した。保健カードが利用可能な州内の指定病院は88、保健所は340カ所。いずれも激増した患者への対処に悲鳴を上げているという。
■新生児たらい回し
今月16日には南ジャカルタ・ザヒラ病院で、呼吸器に問題を抱え、手術を必要としていたデラ・ヌル・アンガライニちゃん(生後4日)が死亡。患者の受け入れ体制の不備に非難が集中した。
デラちゃんは新生児特定集中治療室(NICU)での手術を必要としていたが、ザヒラ病院に高額な医療設備はなく、問い合わせた8件の病院は満床などを理由に拒否。「私立病院には1200万〜1500万ルピア(11万6千〜14万5千円)の頭金を求められた」とデラちゃんの両親は肩を落とした。
両親はすでに保健カードを取得していたにもかかわらず、たらい回しにされたことから、病院側の受け入れ体制が未整備の状態で無償医療プログラムを見切り発車したとの批判も出ている。
州保健局は、新生児用の集中治療室は現在州内で計143しかなく、今後はオンライン化して使用可能な指定病院を瞬時に検索できるシステムを構築すると説明。24時間体制で医師や看護師が監視する必要があり、人材確保とともに研修を施すなどして受け入れ体制を整えるとしている。
ジョコウィ知事は教育と保健の無料化を公約の目玉に掲げて当選、昨年10月に就任した。2013年の保健予算に2兆9千億ルピア(約280億円)、うち保健カードに1兆2千億ルピア(約116億円)を配分し、「市民が直接変化を感じられる改革」の一つとして病院整備を重視している。(堀之内健史、写真も)