市民の仕事に迫る 職場体験 JJS中学部の3人が取材

 ジャカルタ日本人学校(JJS)の中学部2年生が実施した職場体験学習で、中央ジャカルタ・タムリン通りのじゃかるた新聞を訪れた3人は1日、記者とともに街へ飛び出し、取材活動に挑戦した。ジャカルタの人々の生活や職業観などについて取材を終えた「豆記者」たちは事務所で、記事を執筆した。

◇厳重警備に安心

 国連機関やアルゼンチン大使館などが入居する中央ジャカルタのオフィスビル「ムナラ・タムリン」。セキュリティチェックがどのように行われているのか取材した。
 まず、フロントロビーの警備員イドゥルスさん(48)に、普段の警備活動について話を聞いた。
 車の整理、建物を訪れた人への道案内をはじめ、テレビやエレベーター、ATMなどのロビー周辺の施設の管理が一番大切な仕事だ。
 また、銃や刃物、液体など、建物に持ち込み禁止の物を持っていないかを金属探知ゲートやX線を使って確認し、発見した場合はロビーで預かる。今までに、ナイフが見つかったこともあったという。
 金属探知ゲートやX線装置が導入されたのは2009年末。ちょうど、その年の7月に起きた、ジャカルタのホテル同時爆発テロの直後だ。それまでは金属探知用の器具で手荷物しかチェックしていなかったのが、さらに厳しくなった。
 テロについて、ビル裏側の出入り口を警備するムスリムのフィルマンシャさん(44)は「同じムスリムでも、テロリストの話には耳を傾けたくない。暴力を振るっていいと教える宗教はないはずだ。同じ人間なのにどうしてこんなことをするのか」と話してくれた。
 次に、フードコートやコンビニ、両替所などが並ぶ地下に行ってみた。地下には、荷物の出し入れが多いため、一階よりさらに大きなX線の装置が置いてあった。
 近くには、監視カメラの映像がずらりと映し出されている部屋がある。ロビーや通路、エレベーターの中や駐車場など、全部で建物内192カ所にカメラが設置され、カラーの映像を24時間体制でチェック。誰が通って何をしているかが分かるようになっている。映像は1カ月分保存しているという。
 私は、昨年までバンコクにいた。選挙による暴動があり、セキュリティが厳しくなり始めた時期だった。ジャカルタに来て、バンコクと変わらず、形だけの手荷物検査だと思っていたが、今回話を聞いてみて、想像以上にしっかりしていたので驚いた。ジャカルタのセキュリティは信頼できそうだと思った。(松本加恵記者、写真も)

◇屋台引き続け33年

 今回取材したヤディさん(50)は33年間、家族を支えに中央ジャカルタのワヒッド・ハシム通りで揚げ物のカキリマ(移動式屋台)を朝6時〜夜9時まで営業してきた。オフィスビルに囲まれ、会社が多く建ち並ぶこの通りでは通行人が多く、商売が繁盛するという。
 屋台を引きながら、ジャカルタの街の変遷を眺めてきた。1998年の5月暴動があった時も、焼き討ちに遭うビルがある中で店を出し続けた。
 話を聞いていくうちに、彼には奥さんと1人のお子さんと、8カ月、6歳、12歳の3人のお孫さんがいることが分かった。「今は幸せ」と話すヤディさん。仕事に打ち込む彼には「家族」という支えがあったのだ。
 中学校へ行かず、西ジャワ州チルボンから1人でジャカルタへ来たヤディさん。17歳ごろから屋台を始めた。20年以上使ってきた屋台は、アルミと木を組み合わせたお手製。屋台を引く時に使う木の取っ手は、毎日ずっと握ってきたことを表すかのように、ツルツルになっていた。何度も修理してきたようで、年季が入っている。「もうボロボロだろう」と話すが、その表情からは長年連れ添ってきた「相棒」への愛情が垣間見えた。
 ジャカルタでも最近、コンビニが増えている。屋台を営業する身としてどう思うか尋ねると、「コンビニは西洋の物を売っているだろう。こっちはインドネシアのものを売っているんだ」とおかまいなしの様子。
 炎天下の中、きょうも通り行く人へ揚げ物を売っている。家では家族が待っている。(豊原藍記者、写真も)

◇市民守るお母さん

 私の家から徒歩2分。中央ジャカルタのホテル・インドネシア(HI)ロータリー前にある警察官の詰め所に足を運んだ。いつもJJSの送迎バスの窓から眺めていただけのロータリー。実際に歩いてみると、思っていたより木が小さかったりするなど、普段と違う一面を感じることができた。詰め所のドアを開け、女性警察官から話を聞いてみる。
 1歳6カ月の赤ちゃんがいるアニタさん(29)。職場で出会った同僚警察官と結婚、共働きのため子育てはベビーシッターに任せている。平日の週5日働いているため、子どもと接する時間がほとんどないのが悩みだ。「本当は毎日、子どもと遊びたい。でも家族を養うためには働かなければならない。時間がある土日は母親として子育てに専念したい」と話す。2人目の子どもまでは、政府から補助金が出るが、それでも養っていくのは難しいので、ためらっている。
 一方で、警察官の仕事にはやりがいを感じている。2005年1月。刑事局でサイバー犯罪を担当していた時、無許可でアプリケーションソフトを作っていたジャカルタ郊外の古い民家に踏み込み、12人を逮捕し、自分の手で容疑者に手錠を掛け、警察に連行した。
 現在は東ジャカルタ警察に所属するが、交代制で5日に1回、HIロータリー前で勤務。交通担当として、渋滞の緩和などに力を注いでいる。
 アニタさんは「国の安全を守ることに貢献したいと小さいころから思っていた。今はジャカルタの渋滞問題を解決したい」と話し、自分の仕事に誇りを持っているようだった。
 今後、私も仕事でアニタさんと同じ悩みを持つことがあるかもしれない。悩みを抱えながらも楽しそうに仕事する姿を見て、自分も楽しく仕事ができるようになればと思った。(秋山みのり記者、写真も)

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