「総合的な雇用協議を」激しさ増す労働争議 ILOの宮本氏に聞く

 労働争議が激しさを増し、来年の最低賃金が大幅に上昇、インドネシアの労働市場は転機を迎えている。国際労働機関(ILO)ジャカルタ事務所の宮本三知子氏に、労働政策について話を聞いた。         (聞き手・田村慎也、写真も) 

 ―最低賃金が大幅に上昇した。
 最低賃金は、政労使三者が納得して決めるのが大事であり、理想的。現在は、労使双方が「負けている」状態だ。
 経営側は、一度雇用すると、解雇が難しいという状況、労働者側から見ても、賃金に生活の質が左右される状況がある。
 双方に利益が出るように結論を持っていく必要がある。
 ―納得できる話し合いの方法とは。
 現在は、最低賃金額、上昇率が出て、それに対し「いやだ」「オーケー」という話になってしまっている。数字ばかりを追うのではなく、問題となる点を出し合うことが必要だ。
 最低賃金だけをみると解決しない。パッケージの中での最低賃金として協議する必要がある。
 ―政府に求められるかじ取りとは。
 政府は、雇用政策全体を見て、賃金を上げるのであれば、投資家が逃げないようにインフラを整備を加速するなど、労働環境、貧困対策と絡めて、包括的に進めていく必要がある。
 経済成長が続き、政府が「安い労働力」から脱却させようという時期になった。中国では過去10年で賃金が3倍以上に上がった。
 最低賃金制度の本来の政策目的は、社会保護。インドネシアの現在の最低賃金は、(最低賃金レベルの労働者が大半を占めているという意味で)「平均賃金」であり、(一部の経営者がそれ以上の賃金を出す必要がないという判断する基準になっている意味で)「最高賃金」になってしまっている。 
 最貧困層の人を、政府がカバーできる体制を構築できれば、国としては安定する。
 ―派遣労働の法規が改正されたが。
 派遣労働自体は良くも悪くもない。ビジネスプロセスの一環。
 フィリピン、インドなどでは、派遣やアウトソーシングで雇用が増えており、国によっては、派遣労働に対しポジティブなイメージがある。
 インドネシアの場合は、基幹業務の社員と同じ業務をしながら、保障を与えてこなかった。今までの雇用形態の在り方に問題の根幹があったと思う。
 ―インドネシアでは、法的保護外のインフォーマル・セクターで働く労働者が多い。
 景気が悪くなると、インフォーマル・セクターが増える傾向にある。近年では、大幅ではないが徐々に減りつつある。
 ジャカルタではその割合が27%、パプアは80%と、経済成長に伴って、地域ごとの差も広がってきている。
 2010年の推計では全国の労働者人口の59%がインフォーマル・セクターと、6%を超える成長が続いている割に、減少割合が少ないのも問題だ。 
 フォーマル・セクターの労働需要が増加しているが、労働供給とのミスマッチが発生している。企業は、ほしい人材が探せていない。企業が欲するスキルが学べる職業訓練が必要。
 官民連携(PPP)事業の職業訓練が広がらないと、ミスマッチは縮まらないのではないか。職業訓練のカリキュラム作りに参画してもらうなど、民間部門の参加が必要だ。

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