200人が事前研修開始 合格率向上へ期間延長 5年目の看護師派遣事業

 経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士候補者受け入れ事業で、来年に派遣予定の候補者の事前研修が十二日、南ジャカルタ・スレンセン・サワの教育省語学教員学習センターで始まった。二〇〇八年に開始した事業の第五陣の候補者二百人は六カ月間、合宿生活で日本語の基礎や文化、風習を学習。受け入れ機関とのマッチングを経て、来年四月からは日本でさらに六カ月間の研修を行い、各地の病院、施設での就労を開始する。(関口潤)

 日本語の学習を始めたばかりの候補者が日本での生活に困難を覚えることや看護師国家試験の合格率が低調なことなどの反省点を踏まえ、今年七月に日本へ出発した第四陣の候補者はEPAで定められている六カ月間の研修に加えて三カ月間の事前研修をインドネシアで行った。今年はさらに研修期間を三カ月延長し、計十二カ月の研修を経て、就労を開始することになる。
 今年の候補者は看護師五十四人、介護士百四十六人の計二百人。従来は病院・施設との仮契約を結んだ候補者のみが研修を行っていたが、今年は研修中にマッチング作業を行うことになったため、研修参加者数は昨年の百四人からほぼ倍増となった。
 十二日に行われた開講式には鹿取克章・駐インドネシア日本大使、アデ・アダム・ノウ労働者派遣保護庁副長官、研修を請け負った国際交流基金の小川忠ジャカルタ日本文化センター所長らが出席。
 鹿取大使は「受け入れが五年目を迎え、多くの先輩たちが日本で活躍している」と述べ、候補者が行った被災地でのボランティア活動について「日本全国の人々を勇気付けた」と賞賛。アデ副長官は韓国で働くインドネシア人看護師の数が増加していることを引き合いに出し、「より広い分野で、より多くの労働者を受け入れてもらいたい」と期待を示した。
 西ジャワ州バンドンの保健所(プスケスマス)で看護師として働いていた介護士候補のオバルさん(二四)は「介護はインドネシアでは家族かお手伝いさんが行うもの。コミュニケーションが大事な点で看護師の仕事よりも難しそう」と不安を見せつつ、「日本は技術も文化も進んでいる。日本で働くことはより成功に近づくということだ」と語った。


◇「貴重な親日家を支援」 帰国した看護師候補者 AOTS金子理事長に聞く
 日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士受け入れ事業で、二〇〇八年に日本へ出発した第一陣の候補者百四人のほとんどが看護師国家試験に合格できず、約六割が今年夏までにインドネシアへ帰国した。十四日には帰国した候補者を対象にした就職説明会が日本大使館で開催される。日本国内の労働力が将来的に不足することが確実視される中、高度な技術を持った労働者を受け入れる新しい試みとどう向き合うのか。受け入れ事業では日本で六カ月の事前研修を請け負い、候補者の帰国後も連絡会を立ち上げるなどして、支援を行ってきた海外技術者研修協会(AOTS)の理事長を務め、このほどジャカルタを訪問した金子和夫氏に聞いた。
■日本社会への影響大
◇これまでAOTSは製造業の技術者を中心に研修を行ってきた。医療分野の人材を受け入れた意義は。
 金子理事長 われわれは年間に日本で五千人、海外で五千人の研修を行っている。その中でインドネシアから来る看護師・介護士候補者は二百人ほどと規模は小さい。
 だがこの人たちが日本の普通の生活に入り、地方の病院に散らばっていく。高齢化社会でどのように生活を営むかなどの点で示唆を与えるもので、日本社会に対するインパクトは大きい。
◇帰国した看護師の援助を行う理由は。
 東日本大震災後、彼らは「日本にお世話になったから」と被災地へのボランティアを申し出た。二〇〇四年のスマトラ沖地震・津波の経験があるから、「ショックを和らげるために一言でも話すことが大事」と被災者と積極的に話すなど、本当に中身のある活動だった。日本にとって本当に貴重でありがたいことだ。
 帰国した人をどうするかは、制度上空白だった。彼らは日本に大変親しみを感じており、帰ってからもその親しみを維持してもらいたいと心から思っていた。
■厳しい現場で鍛錬
◇十四日の就職説明会で期待することは。
 日系企業には、医療の人材には縁が遠いというイメージがあるかもしれないが、彼らは時間を厳守することなど厳しい看護、介護の場で鍛えられてきた。丁寧に患者、利用者に接しなければならず、気配りもできる。
 彼らに「元気ですか」とメールを送ると、「おかげさまで、元気です」と返ってくる。説明会ではいかに丁寧な日本語を話すかを知ってもらいたい。
◇どのような支援の方法を考えているか。
 AOTSの伝統は、研修を受けた人がずっとネットワーク、絆を持ち続けるというもの。ものづくりの現場で働いた卒業生が同窓会を中心にネットワークを作っている。
 従来の同窓会が帰国した看護師の人々も受け入れることになっている。ネットワークなどあらゆるルートを使って理解と支援を広げていきたい。
◇将来の受け入れ事業の見通しは。
 将来的にはどのような規模でどのような能力の人を受け入れるかをもっと明示すべき。単に国家試験の合否だけを基準にすべきではない。
 十年、二十年という長期的な視点で見ると、人が足りなくなるのは明白。延長措置ができるなど少しずつ変わっているが、大きな枠組みで変化させないと、日本で働きたい人が減っていくかもしれない。
 こんなに立派にやったという実績があれば、ある程度の規模で受け入れていこうというようになる。その点で現在の候補者の働きが大事になってくる。
■インフラ輸出を支援
◇AOTSの今後のインドネシアでの取り組みは。
 インドネシアではインフラ整備が非常に大きな課題となっており、パッケージ型のインフラ輸出を成長の柱に掲げる日本政府も協力している。われわれは人材育成の面で支援していきたい。
 これまでは機器を作る技術者の需要が多かったが、インフラ事業では維持・運営まで現地の人が行わなければならず、人材育成を早い段階で準備する必要がある。AOTSの支援の枠組みを積極的に知ってもらうために、今回は企業なども訪問した。
◇看護師受け入れの基準と第一陣候補者
 二〇〇八年に日本へ出発した第一陣候補者は看護師、介護福祉士ともに百四人。看護師は三年の間に国家試験に合格すれば正規の看護師として日本で働くことができ、合格しなかった場合は帰国することと定められているが、期限の二〇一一年までの合格者は十五人にとどまった。このため日本政府は国家試験で三百点中、百二点以上だった候補者に一年間の滞在延長を認める措置を行ったが、対象となった六十八人のうち、延長の申請を行ったのは二十七人だった。

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