「賃上げは段階的に」 一部凍結を政府と交渉 アピンドのソフヤン会長 ジェトロセミナーで講演

 日本貿易振興機構(ジェトロ)ジャカルタ事務所は17日、「インドネシア・ビジネス・セミナー」を開き、インドネシア経営者協会(アピンド)のソフヤン・ワナンディ会長(71)が、インドネシア経済の展望などをテーマに講演した。政府の諮問機関などで重職を歴任しながらも、政府批判など歯に衣着せぬ発言で知られるソフヤン会長は、一部地域で40%を超える最低賃金の大幅引き上げが決まったことについて、「賃上げは段階的に行うべき。インフレ率の上下3.5%が許容範囲だ」と持論を展開。中小企業や労働集約型産業を対象に、政府との間で、新最賃の凍結を求める交渉を直接行っていると明らかにした。

 セミナーは、ジェトロが毎年年末に行っているもので、日系企業の幹部ら約170人が出席。富吉賢一所長のあいさつの後、ソフヤン会長が登壇した。
 同会長はまず、自身と日本の関係について、1967年にスハルト大統領(当時)とともに初訪日し、佐藤栄作や後に首相となる福田赳夫氏らと会見したことなどに触れ、両国の関係の深さを強調。欧州の経済危機や米国経済の不透明性などが成長センターであるアジアにも大きく影響する中、2015年のASEAN(東南アジア諸国連合)経済共同体や中国が世界経済に果たす役割などを考慮しながら、両国の関係をどのような形で発展させるべきかについて説明した。

■「8%成長も可能だが」
 その前提となるインドネシアの現状や今後の見通しについて、マクロ経済は良好である一方、ミクロで見た場合、「6%台の経済成長率を記録しているが、本来は7、8%の成長も可能なはず」として、汚職や官僚主義、法の不確実性、インフラ不足などの問題を列挙。スハルト政権崩壊後、民主主義と地方分権の路線を選択した結果、その代償を支払わざるをえない状況になっていると指摘した。燃料補助金の負担が大きすぎることもあり、政府の開発予算は全体の20%に満たず、今後5年ほどは民間企業が経済開発のけん引役になると予測した。

■「政治の年に」
 来年は15州、100近くの県や市で首長選があるほか、14年の大統領選に向けた動きが活発化するとして、「政治の年になる」と分析。現政権について、「大統領はいかにイメージを守るかに腐心しており、来年の(事業展開の)障害になる」との見解を示した。
 また、選挙に向けナショナリズムの高まりも予想されると指摘し、特に現在策定中の貿易法案では、WTO(世界貿易機関)や現存の貿易協定に抵触する条項があるとして、財界は過度な保護主義を食い止めるため連携していく必要があると強調。「法律が出てしまってからでは遅い」と述べ、ジャカルタ・ジャパンクラブ(JJC)に対しても、積極的な関与を求めた。

■「少数派が支配」
 労務問題については、8割の労働者はデモをする必要がないと考えているが、政党とつながりがある一部の勢力が扇動的な活動を行った結果、多くの工場で生産活動に障害が出るなど、少数派が支配的な役割を果たしていると指摘。最低賃金の大幅値上げへの対応について、無効を求める行政裁判所への提訴は、繊維や靴などの産業別団体がそれぞれの地域で個別に行っていると説明した。
 個別の対策としては、労務問題をインドネシア人の担当役員に任せきりにするのではなく、日本人の経営幹部が直接対話する機会を持つことが大切とアドバイス。問題が発生した場合にはできるだけ早く、アピンドなどインドネシア側に伝えることでより良い解決策を模索できると強調した。また、地域社会との共存を図る上で行っているCSR(企業の社会的責任)活動をより広報していくべきと提言した。
 ソフヤン会長は、活発化する中国の進出について、「投資の約束だけをして、来るのは安い製品のみ。発電所の建設も遅れている」などと懸念を表明。日本の製造企業はアジア通貨危機時にも多くが撤退しなかったことや、最近のトヨタ・グループの投資計画などを引き合いに出し、より長期の視点に基づいた日本の姿勢を評価した上で、より良い事業環境の実現に向け、政治家へのロビー活動などで共闘していく必要があると訴えた。(上野太郎、写真も)

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