【火焔樹】 夕方の散歩

 日がかげり涼しくなった夕方は、家の中の仕事を終えたお手伝いさんたちが子どもたちの手を引いて外に出てくる時間だ。赤ちゃんを抱いたり、ベビーカーを押して歩く子守りたちもいる。彼女たちの手に携帯電話が握られ、お国言葉で忙しなくしゃべっている以外は昔と変わらない光景だ。
 息子がようやく歩けるようになった頃から、私は毎日のように一緒に近所を散歩した。四季のないインドネシアだが、注意深く道端の草木を見ていると毎日新しい発見がある。近くで見ると不思議な形をした花。日本にはない珍しい配色のチョウチョウ。ふくらみかけたパパイヤ、赤く色付いたランブータン。
 そんなことを話題にしながら2人で歩いているとある日、住宅地を巡回中の警備員から声を掛けられた。「お手伝いは何をしている?」。質問の意味が分からず「家で家事をしています」と答えると怪訝そうな顔をした。後になって「子どもを散歩させるのはお手伝いの仕事。どうしてお手伝いにやらせないのか?」と聞かれたことが分かった。
 ある日、いつもはお手伝いと散歩している近所の男の子が母親と歩いているのを見た。私たち親子の姿を見てその子が母親を「連れ出した」のだが、母親の気恥ずかしそうな、困ったような表情が印象的だった。2人が散歩しているのを見たのはそれが最後だった。
 今、息子はティーンエイジャー。夕方はオンラインゲームで見ず知らずの相手との撃ち合いに夢中になり、それに飽きると外に出て近所の子どもたちとボールを蹴っている。私と手をつないで散歩をしたことは全く覚えていない。あのひと時が形を変えて息子のどこかに残っていると思いたい。(北井香織)

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