今こそ「心と心」大事に 日本のアジア外交に警鐘 日イ協会会長 福田元首相語る
日本インドネシア協会会長として1日からジャカルタを訪れていた福田康夫元首相(前自民党衆議院議員)は4日、じゃかるた新聞と会見した。中国や韓国といった近隣諸国との対立が強まり、「政治の季節」に突入して強硬な姿勢を打ち出すべきとの見方も広がる中、福田さんは父の福田赳夫元首相が1977年に東南アジア外交の基本方針として掲げた「心と心の触れ合う相互信頼関係」について、「今ここでもう一度、日本が立ち止まって考えないといけないという時期に来ている」と強調。「インドネシアなど東南アジアの国々だけでなく、中国や韓国とも『ダリ・ハティ・ク・ハティ』(インドネシア語で心から心へ)を思い返して、お互いに心を通い合わせることを考えないといけない」と訴えた。(関口潤)
皆、親インドネシアに
40年の親交は「天命」
2004年から日本インドネシア協会会長を務める福田さんとインドネシアとの出会いは、丸善石油で働いていた約40年前にさかのぼる。「非常に質の良い石油を出荷する。硫黄分の少ない原油が取れるし、ガソリン分の多い北スマトラ石油なんていうのもありましたね」
政治家に転身してからも、故スハルト元大統領らとの親交が継続。元日本留学生が中心となって設立したダルマ・プルサダ大学で「Heart to Heart」(心と心)と書かれた福田赳夫元首相の書を見たときには、「インドネシアのことを重視しないといけない天命がある気がした」と笑う。
「一度インドネシアに住むと、みんな親インドネシアになる。インドネシアの人は非常に親日家で、私が来ても、相手が政治家だからというだけではない、心遣いの優しさを感じる。親日ということに対して応えないといけないと思っている」と福田さん。「40年前、ビルといったらこのホテル・インドネシアだけで、その周りには何もなかった。それが見てください、きれいな街になったじゃないですか。本当に様変わり。数年前と比べても変わった。それだけ順調に発展している証拠だと思う」と述べ、日本にとってインドネシアとの関係の重要性は一層増していくと指摘する。
両方勝って最高の外交
近隣国との関係改善を
「35年間、同じ合い言葉が続いてきたこと自体が奇跡だと思う」と福田さんが語る福田赳夫元首相の「心と心の関係」。この言葉に込められた意味について「友人関係と一緒。こっちの都合だけ考えて外交ができるはずがない。相手の立場を考えながら進めていくことが大事。基本は人間ですから。人間同士が気持ちを通い合わせて、お互いに発展しようという考え方を持つことが必要」と話す。
衆院選を控えて飛び交う強硬論については「中には相手のことを考えないでこっちの都合だけ言ってる人もいる。しかしそれではお互いの信頼関係っていうのはできない。外交に勝ったも負けたもない。相手も勝って、こちらも勝って、それが最高の外交なんです」と力を込める。
「島国で資源もない日本は、ほかの国とけんかしてる余裕はない。そんなことよりもいかに親しく付き合って、お互いにいいところを出し合って協力するかに全力を挙げるべき。それなのに一番近い国とみんな仲良くないというんだから、皮肉な話。米国との関係も重要。もう一度しっかりしたものに作り直すべき。しかしそれと同時並行し、中国、韓国、ロシアなどと良い関係を作るべき。外交の基本方針は日本の場合はそれしかない。それがうまくいかないというのは外交の敗北だと思います」
協力強化で地域も安定
今後も「相手のため」で
日本インドネシア協会の主要会員となっている企業幹部数十人とともに、正副大統領をはじめ各閣僚や経済団体と会合した今回の訪問について「率直な話し合いができた」と振り返るとともに、「どの閣僚にしても、民間の経済団体の幹部の方々にしても、日本とお互い協調してやっていこうということに関して、まったくこちらと相違がなかった」と話す。
ユドヨノ大統領との会談では、両国関係の強化は経済的な利益だけでなく、地域の安定につながり、国際社会に対しても良い影響を与えるとの見解で一致した。
急速な経済発展を背景に国際社会での影響力を増すインドネシアに対し、伝統的な友好国である日本だけでなく、中国や韓国、欧米諸国も関係強化を図っているが、「協力を独占するというのは無理な話」と福田さん。だが、「『ダリ・ハティ・ク・ハティ』を意識して、インドネシアのために良いことをしていくというマインドで付き合っていけば、これからも良い経済関係が出来上がると思います」と会見を締めくくった。