【火焔樹】 バリのサフール
午前4時になる少し前、目覚まし時計が鳴る前に目を覚ました。夫と息子を起こして作り置きしておいたおかずを温める。外はまだ真っ暗だ。
西ジャワにいたときは、モスクからアザーンが聞こえ「サフール、サフール(夜明け前の食事)」と呼びかけながら通りを歩く人々の声がしていた。どこの家でも家族がテーブルを囲んでサフールを食べている。そんな連帯感が励みになっていた。ところが、ここバリ島ではいつもとまったく変わらない。ジャワ人などムスリムが多く住むデンパサールでは、モスクの数も増えていると聞く。それなのにこの静けさは何だろう。
今年から中学生になった息子は昼までの半日断食をしている。お昼は普通に食べて、夕方の断食明けまで再び飲み食いを我慢する。こういう断食のスタイルもあるのだそうだ。
息子の学校はカトリック系だが、ムスリムの生徒も多く、それぞれの宗教に分かれて学ぶ「宗教の授業」でムスリム同士が顔を会わせる。コーランが読めて、小学校低学年から完全に断食をしている生徒がいるかと思えば、いつものように過ごしている生徒もいるという。「これ見よがしに、おいしそうに僕の前で飲むんだよ」と息子は笑って話す。
「来年は夕方まで断食してみる」。サフールを食べながら息子が言った。そして「ママも一緒に食べて半日断食から試してみたら」とも。実は、私自身は断食はしていない。断食は他人から強要されるものではなく、アッラーとの約束を果たしたいと自らすすんで行うもの。私にとってまだその時は来ていない。早起きには慣れたけど。(北井香織)