日イの「包括的戦略的パートナーシップ」 金杉憲治駐インドネシア日本大使 寄稿
日本は今年、インドネシアとの外交関係65周年、議長国インドネシアの下で東南アジア諸国連合(ASEAN)との友好協力50周年を祝っている。昨年、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を成功裡に主催し、今年もASEAN議長国として存在感を示しているインドネシア。この2年間で、岸田文雄総理はジョコ・ウィドド大統領と5回の首脳会談を行っており、今年12月、東京での50周年記念となる日ASEAN特別首脳会議でも首脳会談が予定されている。これだけの頻度で両国が首脳会談を重ねるのは両国の関係の緊密さの証左ではないだろうか。
9月に行われたASEAN関連首脳会議における二国間首脳会談では、両国関係が「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされ、今後「行動計画」の策定が検討されることになった。インド太平洋地域に位置する海洋民主主義国家として、両国は戦略的利益を共有しており、これまでの協力の上に、更に両国関係の幅と深みを増していくことが求められている。
今後の両国関係を考える上で幾つか重要と思われるポイントを述べたい。
第一に、言うまでもないが、経済関係の更なる強化である。両国の強い相互依存関係を生かして、日本は①生産・輸出基地としてのインドネシアの底上げ②人材育成(技能実習も含め)③アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を中心に現実的かつ円滑なエネルギー移行、④インフラ開発支援(離島開発や新首都「ヌサンタラ」等)⑤インドネシアにおける社会課題の解決(廃棄物処理や環境等)——といった分野でインドネシアに貢献できるし、それが日本の利益にもなってくる。また、インドネシアは現在、経済協力開発機構(OECD)への加盟申請を行っているが、円滑な加盟審査を支援していくこともお互いを裨益(ひえき)することになる。
第二に、共に海洋民主主義国家であることから生じる安全保障上の対応への協力である。この面は近年着実に協力が積み重ねられてきているが、インドネシア側が「心地良い」と感じるペースを基本としつつ、日本側から①ソフトな安全保障協力(国連平和維持活動=PKO=や人道支援・災害救助活動等)、②海洋安全保障面の能力向上(人材育成等)③ハードな安全保障協力(多国間の軍事演習スーパー・ガルーダ・シールド等を通じて)④防衛装備品の移転、といった分野で更なる協力を推進していくことが重要である。
第三に、次世代を担うインドネシアの若者に対する更なる働きかけである。日本に対する好感度は引き続き高いとは言え、かつての「日本シンパ」の世代は働き盛りを過ぎており、今のインドネシアの若者は世界をよりフラットに見ている。将来にわたって日本を選んでもらえるよう、様々な工夫をしながらオール・ジャパンで「何故、日本の方が良いのか」を発信し、実感してもらわなければならない。インドネシアで関心の高い日本語教育を継続的に支援していくことの重要性も論を俟たない。
第四に、日本がインドネシアをより「対等な」パートナーであると意識して協力する姿勢である。今のインドネシアは日本人の多くがイメージするかつてのインドネシアでは全くなく、変化を恐れない柔軟な政策運営やデジタル分野ではむしろ日本が学ぶべき相手であり、それを前提にインドネシアと向き合っていく必要がある。もちろん、「上から目線」をあからさまに示す場合は多くはないとしても、インドネシア側は微妙にその気配を感じ取っており、この点は特に肝に銘じておきたい。
12月の東京での特別首脳会談、そして、来年2月の選挙で誕生する新大統領との関係作りの中で、日本はインドネシアとの間で様々な可能性を探究していかなければならない。(寄稿)