「五色のメビウス」 地方の外国人労働者描く
日本社会の人手不足が懸念されて久しい。地方ではより深刻化しており、外国人材に対する各産業の期待は大きい。一方、実習・就労先での人権侵害や低賃金など問題は山積している。
長野県の地方紙、信濃毎日新聞のキャンペーン連載を書籍化した「五色(いつついろ)のメビウス 『外国人』とともにはたらきともにいきる」(2022年・信濃毎日新聞社編)は、新型コロナウイルス禍の日本で暮らす外国人労働者に焦点を当てて、未来を展望した。
本書は八ヶ岳の裾野に位置する村で働くベトナム人技能実習生の姿を活写するプロローグから始まる。第1章「命の分岐点」は、雷注意報が発令される中、外国人労働者がサニーレタスの苗を植える作業中に落雷にあった事故などを通じ、労働環境の問題点を浮き彫りにした。第2〜3章では、技能実習生や特定技能といった制度のひずみや課題を伝えた。
日系人や留学生、入管などのテーマについても紙数を割いており、関心のあるテーマから読み進めることができる。
圧巻は終盤に展開される日本政府や地域社会、企業への「提言」だろう。外国人と日本人が支え合い、共生しなければ日本の未来はないとの視点に立ち、日本語教育や生活環境の支援の重要さを強調する。外国人材を苦しめる悪質な仲介業者(ブローカー)の排除に向けた仕組みの改善も求めた。
コロナ禍を経て、日本で働くインドネシア人の技能実習生・特定技能人材が急増しているが、楽観視はできない。為替の円安は、祖国に送金する金額の減少につながり、インフレによる生活費上昇も日本で働く魅力減に直結しうる。他国との人材の取り合いは激化する一方だ。
日本では、技能実習制度の見直しを進めるなど外国人を取り巻く法改正の議論が盛んだ。この先も外国人に働く場として日本を選んでもらうためにすべきことは何か。個人の思いや行動が重要になる中で、本書には多面的に考えるための要素が詰まっている。
日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞と新聞労連ジャーナリズム大賞優秀賞、菊池寛賞を受賞した。明石書店・1980円、電子書籍も購入可。