【火焔樹】 笑顔の日本人
あるインドネシア人に日本人男性はなぜあまり笑わないのかと聞かれた。「トイレで気張っているような感じ(seperti sedang sembelit)」がして、いつも何をそんなに難しいことを考えているのかとのことだった。
この話を聞いて、昔、阪神タイガースから大リーグへ行った新庄選手と接したアメリカ人記者が「日本人も笑うのか」とコメントしたのを思い出した。確かにそれまでの日本人大リーガーは野茂選手、伊良部選手、佐々木選手、イチロー選手‥とどちらかといえば朴訥(ぼくとつ)なタイプが多かったので、アメリカ人には新庄選手のスマイルが新鮮に映ったのだろう。
「黙々と仕事に打ち込む姿が美徳」とされる日本の社会では、「仕事中にへらへらしていられるか」との声が聞こえてきそうである。一方、インドネシア人はいつも笑顔を絶やさない人が多い。ちょっと場違いな笑顔も多く、何を考えているか判断に苦しみ、拍子抜けしてしまうこともある。
それでも笑顔を絶やさない人が多いのは、物事を真剣に受け止める度合いが天と地ほど違うことも挙げられるが、裏を返せば心の余裕に起因するのだ。困難に直面してもきっと何とかなる、根拠のない楽観的憶測でも希望を抱き、人と寄り添い、助け合い、生きていこうとするさまは、何でも自己責任と言って済ませてしまう少々堅苦しい日本の社会とは対極にある。
が、これこそが本来、日本人が作り上げてきた社会であり、きっと一昔前までの日本では、さわやかな笑顔が至るところで見かけられたのだと思う。クールと呼べば聞こえはいいが、むっつり顔の上司の顔を一日中見ているのがつらいのは日本でも同じ。何も過度に人目を気にして仕事中に無理して微笑む必要はないが、いつも心に余裕をと心掛けていれば、自然と頬がほころぶものだろう。初対面の人とあいさつする時、100人中99人は満面の笑みを浮かべるインドネシアの人を見習いたい。
さて、あの新庄選手はバリ島に住んでいるらしい。「彼の個性は日本では死んでしまう」とも冒頭の記者は述べていた。なるほど、彼はインドネシアが性に合うのかもしれない。(会社役員・芦田洸)