【火焔樹】 おかゆから街を感じる
代表的なインドネシア料理であるにもかかわらず、インドネシアで働き始めて以来、一度も食べたことのなかった「ブブール・アヤム」(インドネシア風鶏肉のおかゆ)をつい最近、初めて口にした。
「健康なのに何でおかゆなんて食べないといけないんだ」と思い、避けてきたブブール。だが路上のカキリマ(移動屋台)で買ったブブールは、良い意味で期待を大きく裏切ってくれた。
おかゆは薄味の出汁が効いている。その場で刻んでまぶす鳥肉は、香ばしい皮やジューシーなもも肉など各部位が混在。添えられる豆やクルプック(揚げせんべい)が余計に箸を進めさせる。
ブブールのほかにも最近、ミー・アチェ(アチェ風焼きそば)やナシ・ウドゥック(ココナッツミルクを使ったご飯)などにもはまっている。こうした出会いをもたらしたのは、中央ジャカルタのベンヒルに引っ越したのがきっかけだ。
ベンヒルは、パサール(伝統市場)周辺に夜遅くまで立ち並ぶ屋台街がある一方、一歩通りから中に入れば閑静な住宅街といったたたずまいを見せる。最近ではセブンイレブンやローソンが開店するなど、いくつもの顔を持った地域だ。
このベンヒルでは以前まで、じゃかるた新聞の草野靖夫初代編集長の肝いりで、新入社員が住むコス(下宿)を借り上げていた。私は機会に恵まれなかったのだが、草野さんは新入りの若い記者を連れて、ベンヒルのシーフードの屋台へ夜な夜な繰り出し、長弁舌を振るっていたそうだ。
草野さんはアパートに記者を住まわせるのには否定的だったという。下町を自分の足で歩き、市井の人に親しまれる屋台料理を食べて、肌でインドネシアを感じることが、記者生活を歩み出す若者には必要だと思っていたのだろう。そう思いを巡らせながら、取材前にブブールをすする日々が続いている。(関口潤)