【火焔樹】 自分で運転
5年間務めた家の運転手が辞めた。しかし、車の運転は日本で数十年前、それもごく短期間だったので、とても自分で運転する気にはなれなかった。
日本の友人はバリ島の交通事情を見て「こんな危険なところでは到底運転できない」と話す。ところが次の運転手はなかなか見つからない。こうなったら自分でするしかないと教習を受けることにした。
家に迎えに来たのは「練習中」の表記などはない普通の車。ほとんど車が通らない道路で直進と右折を数回したあと、いきなり「バイパスに出なさい」。「まだ左折をしていませんが」と応じると「いや、これから練習する」。
デンパサール市内を走っていると、オートバイの無謀さにあきれる。右折しようとすると猛スピードで右側を直進する、左側からこちらを全く見ずにいきなり飛び出す、ヘルメットなしの家族4人乗りが突然ふらふらと道路の真ん中へ出てくる。
10時間の教習が終わり、運転免許の手続きをした。教習所に50万ルピアを払い、用意された封筒を持って警察署へ。教えられた電話番号にかけると「担当者」が現れた。試験場には「試験用車両」と書かれたぴかぴかの車があったがそれは無視して、私に代わって申請書を記入。英語の筆記試験も彼が3択の答えに次々と丸を付けていった。
「走行中誤って人をはねてしまった。すると付近の住民が怒り狂ってあなたに襲い掛かってきた。この場合どうすべきか?」
彼が丸をつけたのは「その場からすぐに立ち去り、後でナンバープレートを交換するなどして、見つからないようにする」。乱筆でほとんど読めないような申請書と、もしかしたら間違いだらけの答案用紙を持って受付へ。30分後に5年間有効の免許を手にした。
あれから次の運転手がやっと見つかった。子どもの学校への送り迎え、その他もろもろの用事に運転手がいるとやはりとても助かる。私一人でどこへでも行かれるようになる頃にはバリの道路事情はどうなっているのだろう。(北井香織)