菅政権に熱い視線 UI上級講師 バクティアル氏寄稿
安倍前首相が8月末に健康悪化を理由に辞任を表明してからほぼ3週間が経ち、菅新政権が誕生した。日本の政界の動きにインドネシア国内からも熱い視線が送られた。
安倍氏が離任を表明した直後、ジョコウィ大統領は短文投稿サイト「ツイッター」で感謝の意を伝えた。
「安倍首相は、2014年に私が大統領に就任した後に最初に面談した世界的な指導者の一人でした。彼のリーダーシップにより、インドネシア・日本の両国は強い関係を築くことができました。安倍首相の友情に感謝します。今後のさらなるご健康をお祈り申し上げます」とジョコウィ氏は語った。
これに対し、安倍氏が美しいインドネシア語でツイッター上で返答したことも、日刊紙コンパスなど国内主要メディアが伝えている。
「大統領の温かいメッセージに対し、心から感謝申し上げます。私が首相在任中に日イ両国の強い友好関係を築くことが出来たことについて、大統領とインドネシア国民の皆さまに感謝します」と安倍氏は述べた。
歴代最長となった安倍政権のもとで日イ関係が深まったことは事実だ。
インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストの論説委員、コルネリウス・プルバ氏は9月2日、「安倍氏のもとで日本の投資と経済協力はインドネシアで高い評価を受けた。日系企業はローカル職員を厚遇し、労使問題はほぼ皆無だった」と指摘する。
プルバ氏はさらに、「ジョコウィ政権が力を入れているインフラ整備の面でも、安倍政権の役割には目を見張るものがあった。日本の援助によって首都ジャカルタの大量高速鉄道(MRT)が19年3月に開通し、市民に大好評を得ている」と評価した。
たしかに、タムリン、スディルマン通りという首都の目抜き通りを結ぶMRT南北線第1区間(15・7キロ)は日本のODA(政府開発援助)事業として約5年半の工事を経て、19年3月に完成した。同4~10月の平均乗客数は1日当たり約8万4千人にのぼり、洒落っ気のあるMRT駅の出入り口や広い歩道に未来的なデザインの歩道橋、街灯、街路樹などを派生させ、首都の景観を一変させた。
新首相に就任した管氏も、安倍氏に比べると知名度に欠けるものの、地元メディアが大きな期待を寄せている。
ジャカルタ・ポスト紙は9月17日付の社説で、「コロナ禍とその経済的影響を緩和するための長い戦いで、管氏に期待を寄せているのは日本国民だけではない。ASEAN10カ国を含めた世界各国が、管氏のもとで日本が保健および経済面での危機を乗り越え、世界経済の復興に寄与することを願っている」と述べた。
今日のインドネシアでは、様々な世論調査で日本は常に「最も親しみを覚える国」に選ばれている。コロナ対策をめぐっても、多くの識者が「規律正しい日本人のようにマスクの着用、外出の自粛、密集の回避を励行すべき」と呼びかけている。
民主化が始まって22年、この国では、腐敗撲滅、貧困・格差の緩和、多様性の維持といった課題をなお抱えているが、人権、法の遵守、言論の自由、ジェンダー平等、環境保全といった民主的な理念が広く根付き始めていることも事実だ。現在、日イ両国は文化的な違いを乗り越えた普遍的な価値観を共有していることは間違いない。
こうした共通の価値観こそが今後の日イ関係のさらなる強化のための原動力となるだろう。(原文日本語)
◇バクティアル・アラム インドネシア大学人文学部上級講師、アジアコンサルト・アソシエーツ代表。インドネシア大・米ハーバード大卒。16年日イ相互理解への貢献で旭日小綬章を受章