花王の現場主義説く 伝統守る商品開発 アル・アズハル大学で講演
南ジャカルタのアル・アズハル大学キャンパスで十一日、花王インドネシア社の規矩田聖治マーケティング部門シニアマネージャーが講演を行った。同大文学部日本研究センターが主催し、日本語学科の学生など四十五人が参加。規矩田シニアマネージャーは七年間のインドネシアでの実践に基いて、インドネシアの伝統を守りながら商品開発を進める花王流の「現場主義」を説き、最後には教室は一体感に包まれた。
「このバティックはどこのものか分かりますか」。講義の冒頭、自らが着ているバティックを指差し、学生たちに問いかける。バティックには産地独特の模様がある。
「インドネシアのための商品をつくりたい」。そんな思いから生まれたのがバティック専用の洗剤「アタック・バティッククリーナー」だという。バティックは色落ちしやすく、適した洗剤はほとんどなかった。
花王インドネシア社は三つの現場(1)バティックを洗う各家庭(2)生産者(3)市場―を徹底的に調査。その際にインドネシアの社員と信頼関係を築いたり、バティック作りを体験したエピソードを交えながら「優しい洗剤」づくりの過程を説明した。
講演の最後には挙手で助手を募り実験を行った。水の量が違う二つのコップに同じ量の塩を入れる。当然少量の水が入ったコップの方が辛い。なぜか。実験に参加したユタ・シマさん(二〇)は「水が多い方が薄まり辛くなくなる」と答える。
規矩田さんが人生の試練に置き換え、実験の真意を語る。さまざまな経験を積むほど、試練の濃度が薄まり乗り越えやすくなる。「自分で掃除をしてください。物事の大変さが分かれば便利にしようと発明が生まれる」と自分の目で見て触れることの重要さを実験を通して説いた。
講義後の質問で「なぜアタック・バティッククリーナーのテレビCMを打たないのか」と聞く学生に対し、規矩田さんが「製品を全面に出すのではなく、バティックを守っていくことによっておのずと製品は売れていく」と答えると、学生たちから拍手が沸き起こり、教室は一体感に包まれた。
同センターのフェラ・ユリアンティ・マリク所長によると、ポップ・カルチャーに興味を持ち、日本語学科に入学してくる学生がほとんどだという。しかし今日のような体験を通してさまざまな文化、社会問題に興味を持ち、日本の「少子高齢社会」や「東日本大震災被災地における和の心」を研究テーマにしている学生もいる。
規矩田さんは「近年、中国や韓国が台頭してくる中で、少しでも学生に日本は面白いと思ってもらえれば大成功」との思いで講義をしたという。
参加したモニカ・フェブリナさん(二〇)は「規矩田さんはバティックについて私たちも知らないことを知っていた。何でも経験することが重要なんだと感じた」と勉強中の日本語で語った。
同研究所は、昨年九月より日本への関心と学習意欲を高めるため「チャレンジ! 日本に学ぶ」と題し、インドネシアで活躍する日本人の体験から学ぶ講演会を不定期で行っている。