日イ師弟コンビが奮闘 正修館道場 インドネシアで居合道
始め──! 袴姿の門下生たちが、腰に差した日本刀に一斉に手を掛ける。静まり返った体育館に、刀を振り下ろす風切り音が響き渡った。「正修館インドネシア」は、全日本剣道連盟が定める居合道の型「制定居合」を教える、国内唯一の道場だ。日本で居合を学んだジョコ・プリヤントさん(57=5段)と、師匠の樋口正實さん(82=教士7段)の〝師弟コンビ〟が、「日本の武道文化を広めたい」と、インドネシアで奮闘している。
同館は、日本で居合道を学んだジョコさんが2011年に開いた。そのジョコさんに日本で居合を教えた樋口さんも、13年ごろから定期的に指導に駆け付け、週2回、ジャカルタ特別州の体育館などで開かれる稽古には、ジャボデタベック(首都圏)や西ジャワ州を中心に毎回15人程度の門下生が集まる。
同館では型稽古のほか、日本で年2回開かれるの昇段審査に向けた練習も実施しており、これまでに8人の有段者を輩出している。
制定居合では、実戦を想定した12種類の型を中心に学ぶ。技の力強さよりも、決められた動作を正確に行うことが重視されるため、年齢や性別、武道経験の有無に関わらず、全員が同じ内容の練習を行える。ジョコさんは日本語で「居合道は精神を鍛える〝動くの瞑想〟。力の強さだけではない、本物の日本武を道学べる場所を作りたい」と話す。
■姉妹守るため、武道始める
ジョコさんは中部ジャワ州クラテンで8人兄妹の次男として生まれた。地元の村では恐喝や女性への性的暴力が横行。自身も恐喝などの被害を受けた経験から、「自分が妹や姉を守らないと」という思いを強めた。そんな中、テレビで時代劇「座頭市物語」や「水戸黄門」を観て、「弱きを助け強きを挫く侍」にあこがれ、11歳の時に空手道場の門を叩いた。
ジョクジャカルタ特別州の大学で英文学と語学教授法を学び、卒業後は語学学校を経営。その傍ら空手の稽古も続けたが、当時のインドネシアでは空手の段位を取得することができず、「日本で武道を学びたい」と考える様になった。
1999年に日本人女性と結婚したこともきっかけとなり、翌年から日本へ。小学校教員向けの英語指導などで生計を立てながら、樋口さんが運営する道場「正修館(福岡県八女市)」で11年まで稽古を積み、インドネシアに帰国後、道場を開いた。
居合道、杖道、合気道、弓道で合わせて15段。空手やインドネシアのプンチャック・シラットも学んでおり、年間350日武道の練習をしているという。「私は『ギラ武道』(武道ばか)ですね」と笑った。(高地伸幸、写真も)