志望者たちの「夢」守る 送り出し機関経営 元実習生エンディさん
「事件について、何か知っていることはあるか」。2007年11月、西ジャワ州バンドン市警の一室で、警官2人が元技能実習生、エンディ・セティアジさん(43)に問いかけた。エンディさんは日本から帰国後に技能実習志望者に向けた日本語学校を開き、同州ブカシ市の実習生送り出し機関と連携。06年に志望者70人を教えたが、この送り出し機関が志望者たちから費用だけを徴収し、1人として日本に送らない「悪徳機関」だった。志望者らが警察に駆け込み、捜査に乗り出した警官から事情を聞かれたのだった。
「僕は何も知らない。日本語を教えていただけだ」。エンディさんはそう答えた。自分自身もだまされ、実態を聞いたときには衝撃を受けた。送り出し機関の経営者はかねてからの知り合いで、50代と思われる日本人を名乗る女性も同機関におり、信用していたのだ。
警察の捜査の末、送り出し機関の幹部1人が捕まったという。実習生仲間から多数の悪徳業者がインドネシアに存在するとは聞いていたが、実態を目の当たりにしたのは初めてだった。日本行きの夢を奪われた志望者たちはみな、悲痛な表情を浮かべていた。
エンディさんその約2年後、送り出し機関「ミライヌサンタラ」を立ち上げた。「ちゃんとした送り出し機関をつくって、日本に夢を見るインドネシアの若い人を応援したい」。事件の前から設立を準備してきたが、この事件が熱意を強くするきっかけになった。
エンディさん自身もそんな若者の1人だった。バンドン市の職業訓練高校卒業後、4つ離れた妹や両親の助けになろうと技能実習に参加。1997~2000年、滋賀県八日市市にある土木建築資材製造会社で働いた。帰国後は学んだ日本語を生かそうと、実習で得た資金を元に01年から日本語学校を開業。家族や自分の生活は上向いた。
ミライヌサンタラでは、実習時代の知り合いのつてをたどり、10年に技能実習生1人を滋賀県に送り出した。送り出し人数は11年に3人、12年に8人と徐々に増え、現在までに合計470人を超えた。エンディさんは業界団体「海外実習事業主催協議会(AP2LN)」の西ジャワ州委員長も務めている。
悪徳機関は依然として存在する。「インドネシアには約210の送り出し機関があるが、実際にちゃんと仕事しているのはその半分くらいなのでは」。
送り出し機関に対する当局の認可条件は近年厳格化され、監査も行われているが、行き届いてはいないという。
「もっと規模を拡大して、(悪徳機関から)若い人たちを守りたい」。エンディさんの思いは熱い。(大野航太郎)