【岐路に立つ電力開発】(下) 分散型発電の必要性見据え 川崎重工業の挑戦
政府は送電網整備を進めているが、離島をはじめ地方では依然として電力不足に悩む地域が残る。また、8月の停電では非常時の電力供給体制の弱さが露呈した。地域内や工業地帯など使用地点の近くで発電する、地産地消型の分散型発電の必要性が高まっている。ガスタービンやガスエンジンの販売促進、発電と同時に出る排熱を有効利用する「コージェネレーション(熱電併給)」の普及を進める、川崎重工業子会社のカワサキ・ガスタービン・アジア(KGA、本社・マレーシア)・ジャカルタ駐在員事務所の西宗之所長に最近の動向を聞いた。
駐在員事務所はガスタービンやガスエンジンの販売強化を目的として、2018年に設立された。
販売先は主に工業・商業といった産業向けと、発電所向けに分けられる。産業向けでは、タイヤメーカーや二輪・四輪メーカー、石油化学などの業種向けの販売拡大を目指す。
発電所対象の事業では、国営電力PLN傘下の発電所やIPP(独立系発電事業者)、独立系の電力会社が顧客となる。発電電力の範囲は1万~10万キロワット(KW)。
電力関係の市況は先行き不透明だ。各事業者が自前の装置でガスを使い発電する分散型発電の事業においては、電気代は上昇しつつもガス価格は抑えられている方が良い。
電気料金は、ルピア相場などを踏まえて見直す変動制に移っていく中で上昇するとされているが、来年年間を通しての動きが読みづらい。11月に中止したガス価格値上げの可能性も、依然として燻っている。
国内全体で、燃料調達面での不安などからガス火力発電のIPPによる新規事業は減っている。KGAも現状はなかなか受注に結びついていない。ライバル会社となるバルチラ(本部・フィンランド)はディーゼルなどの液体燃料と、ガスの両方で焚ける製品をそろえている。ガス専燃、高効率が長所のKGAも、ガスのパイプラインがまだ敷設されていない地域での発電所建設案件では、入札に参加することが難しい。
ジャカルタ事務所の荒木大地さんは「島国のインドネシアでは需要はあるが、まだ受注に結びつけるのが難しい。ただ、インドネシア人スタッフと共に1年半営業していく内に『ガス専燃ならカワサキがあるよね』と期待してくれるお客さまは増えている。この国に事務所を置いているからできる事業です」と手応えを話す。
■停電時の活用も
ジャワ島西部で8月に発生した大規模停電では、非常時の電源が確保されていない状態が露呈した。西所長は「当社のガスタービンの9割(全世界で)は非常用。停電後に、機能について問い合わせをいただく機会があった」と語る。停電によるリスクを懸念したり、自前での電源確保を考えたりする企業は多い。
普段使わない物にどれだけ必要性を感じるか。引き続き、地道に顧客に対して必要性を説いていく。
石炭火力の大型発電所からの送電に頼ってきたインドネシア。日本では全電源の5%を占める分散型電源や、コージェネレーションというシステム自体が認知されていない。
世界中で「エネルギー安全保障」という単語が叫ばれる中、効率的なエネルギー消費につながり、二酸化炭素排出量削減など環境への配慮が求められていく中でも、導入の意義が大きい。
インドネシアでは後発の川崎重工業は、今後スマトラやカリマンタンへの展開も検討していく。顧客の課題を聞き取り、需要掘り起こしを進める。(おわり)(平野慧、写真も)