【売られた花嫁】(5) 人身売買「氷山の一角」 一方で幸せな国際結婚も
中国へ売られた女性の帰国を支援している「インドネシア移民労働組合」(SBMI)によると、2019年だけで、西カリマンタン州出身の花嫁22人の被害を確認、うち14人の帰国を支援した。これとは別に、今月2日にも、北京のインドネシア大使館で保護されていた被害女性14人が帰国している。
被害者はキリスト教徒や仏教徒の華人、ダヤック人が多く、州都のポンティアナック市からマレーシアとの国境に近い内陸部まで広がっている。また、18年ごろから西ジャワ州などでも被害が確認されている。
外務省は1~7月で32件の被害に対処したが、同省インドネシア人・法人保護局のユダ・ヌグラハ局長代行は、あくまでも「氷山の一角」と話す。
■被害防止へ中国と連携
西カリマンタン州に被害が多い背景には、長年、同州シンカワン市出身の華人女性と中国人男性との国際結婚が行われてきた経緯がある。結婚自体は合法なものも多く、一概に人身売買とは言えない。ユダ氏は「幸せな結婚をしている人もいる」と前置きしつつ、近年増えている花嫁売買では、両国のブローカーによる不当な搾取が行われ、「(花嫁だけでなく)夫側も被害者と言える。問題解決には二国間の協力が不可欠」との認識を示した。
人身売買組織が絡むケースでは、中国人男性は結婚にあたり、総額数億~8億ルピア程度を支払っているが、インドネシア人女性側の取り分は数千万ルピアにとどまる。
SBMIのマハディール氏は、西カリマンタン州内に、両国のブローカーで構成される人身売買組織が少なくとも三つあると指摘。摘発は進んでおらず、「このままでは被害者は増える一方」と危惧する。
狙われるのは、経済的に困窮している女性。ブローカーが「裕福な男性と結婚し祖国に仕送りができる」などとうその情報を伝えて勧誘したり、婚姻年齢に満たない女性を結婚させたりする悪質なケースが目立つ。
7月末には両国の外相が会談し、再発防止のため、2国間の国際結婚の手続きを厳格化する方針を決めた。政府は西カリマンタン、西ジャワ両州で住民女性への啓もう活動も行っていくとしている。
■背景に一人っ子政策
花嫁が中国に売られる背景には同国の「花嫁不足」がある。2015年まで36年間続いた「一人っ子政策」で男児が女児より好まれた結果、男性の数が女性の数を約3千万人上回っている。
中国では多額の結納金を収めるのが慣習。国内女性と結婚するよりも安く花嫁を迎えることができることから、インドネシアを含む東南アジアでの花嫁売買につながっているとみられる。 (木村綾、おわり)