【カラワン 工場近隣の村で】(中)立ち上る黒煙、「病気の源」 輸入ごみ売買を摘発

 「リサイクルできないプラスチックごみはここで燃やす」。アデ・ジュナイディさん(42)さんに案内されたのは自宅から数百メートル先の窯で、付近には廃タイヤも山積みにされていた。
 聞けば、地元で「リオ」と呼ばれる伝統式の石灰窯らしい。タマンサリ村には石灰石の採掘場がある。掘り出した石灰石を燃やして生石灰を生産し、セメント会社などに販売しているのだという。廃プラスチックや廃タイヤは燃料として使われていた。
 「先祖代々、100年以上前から受け継がれてきた」という窯は、燃やすたびに激しい黒煙を上げていた。
 健康被害はないのか、村役場で尋ねると「石灰窯は生まれるずっと前からあるから」と皆慣れた様子。人口約7千人の村に窯は100カ所以上、一カ所につき平均25人前後が働いているという。そこへ行き場を失った輸入ごみも加わり、村は潤った。役場の男性(35)は「村人の7割は輸入ごみ引き受けに賛成だろう」と話す。
 だが苦情も出ている。「ごみが村人の生活の糧なのは分かるが、病気の源だ」。石灰窯のそばに暮らすエンダ・サフバナさん(50)は、煙で目やのどを痛め、外出を控えざるを得ないと訴える。
 煙は、エンダさんが保護者会の役員を務める中学校へも。輸入ごみが増えてからというもの、石灰窯だけでなく、校舎横の空き地でもごみが違法に燃やされ始めたからだ。
 環境団体エコトンによると、2018年のインドネシアの古紙の輸入量は、前年比1・3倍の170万トン。プラごみの輸入量も前年比2・4倍の28万トンと、中国の禁輸措置を背景に急増している。危険ごみが紛れているケースもあり、政府は港での検閲を強化し、悪質な場合は輸出元の国に返送するなど対処に乗り出した。
 カラワン県環境清掃局も1月以降、複数回にわたり県内の再生紙工場の監査を行った。輸入ごみの売買も摘発され、タマンサリ村の住民に流れていたごみは、工場側が5月ごろに回収したという。
 この流れを受け、ブカシ県の再生紙工場もアデさんらタマンサリ村の住民とのごみの売買を中止。アデさんの元には2カ月ほど前からごみが来なくなった。ピーク時に100人以上いた仲間は数人に減り、残ったごみを仕分けしている。
 「このままごみが来なかったら、仕事、どうしよう」。今もアデさんの元で働くアルサさん(32)は、かつては道路や橋の建設作業員で、「現場はカリマンタンなどで、3カ月に1度しか帰宅できなかった」と話す。2カ月前に離婚して4歳と13歳の子どもがおり、村での仕事を望んでいる。
 ごみの輸入規制を求める動きが高まっているが、アデさんは「ネガティブな面だけを見ないでほしい」と訴えた。「私だって家の周りにごみ山があるのは、いい気はしない。だけどこのごみがあれば、年齢や技術に関係なく多くの人が働けるんだ」(木村綾、写真も、つづく)

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