「帰れと言う権利はない」 指宿昭一弁護士 実習生「強制帰国」
日本での外国人就労拡大を図る在留資格「特定技能」の新設、インドネシア人実習生の「強制帰国」問題……。外国人労働者をめぐる動きが急だ。外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表などを務め、これらの問題に精通する指宿昭一弁護士に聞いた。
——広島市の実習受け入れ先から「強制帰国」させられたとして、インドネシア人実習生が監理団体などを提訴した。
強制帰国は全国で頻発している。企業側、受け入れ側に強制帰国させる権利は全くないが、それができてしまうのは、実習生が奴隷的な状況に置かれていることと、そういうことをしても大丈夫なんだという企業側の意識がある。犯罪行為だが、警察も入管も企業側を取り締まらない。
そもそも、帰れという権利はないはずだ。帰るかどうかは、本人が決めればいい。技能実習で受け入れておきながら、実習を中止するというのもおかしなこと。それも違法だと思う。
——広島のケースでは、本実習にはいる前の講習段階で帰国させられた、とされる。
珍しいケースでは。早過ぎる。その段階で帰すと、本人も、受け入れた側もメリットがない。
——違法と認められた場合、監理団体への措置は。
制度に反することをやっていれば、技能実習機構によって受け入れ停止とされる可能性がある。3年、5年などの間。
——外国人技能実習制度をどう考えるか。
送り出し団体と監理団体が間に入って、そこから非常に強い統制を受ける。それぞれ中間搾取をしていて、送り出し団体は多額の渡航前費用を取っている。監理団体は1人当たり月3万~5万円のおカネを各企業から取っている。
職場を移動する自由がない。普通なら、広島の件のように「うちで駄目だ」と言われたら、よそに移って実習をすればいいが、それが制度的に、原則駄目ということになっている。違法な受け入れ中止なら、よそに移れる、という建前はあるが、現実にはほとんど不可能だ。
この制度はだいぶ手直しされてきたが、全くよくならないので、廃止すべきだと思う。
■問われる本格定住
——4月に創設された特定技能は。
ブローカーの規制が不十分だ。技能実習制度と同じだ。規制をしっかりやるべきだと思う。
特定技能1号は家族帯同禁止、5年が上限となっていて非常に使い捨て的な制度。家族と一緒に過ごすことも許さない非人道的制度なので問題がある。
2号は、建設と造船しかやらないといい、問題がある。ただ、1号から2号に比較的スムーズに移行できるならば、今よりはだいぶよくなると思う。建設と造船の人は5年以内に移行できるということで、必ずしも、5年たたなければ移れないということではない。それがいつごろか。2号は2年後にスタートするので、まだ見えない。
——2号業種が広がっていく可能性は。
各業界は求めていると思うが、政府は広げる方針をとっていない。本格的に定住する外国人を受け入れたくないという思惑が政権側にある。
——長く働いていれば、地域社会に定住する人が出てくるのが自然だ。
家族を帯同しないので大丈夫だと思っているのかも知れないが、日本で恋愛をして結婚をする人もいるだろう。企業側や地域社会にとって、何年か務めてくれた人が5年で帰るよりも、働き続けてもらう方が、いいこと。そういう要望もたくさんあると思う。
——にもかかわらず、政権側がためらう理由は。
政権を支えている排外的な保守層に対する配慮だと思う。そもそも2号を認めるべきではないという声が、保守層からは強かった。(米元文秋)