進む寺院の再建 未解明の建造物も
ここ中部ジャワは地震や火山の噴火などの天災の多い地域である。最近では、プランバナン寺院は2006年のジョクジャカルタ地震の際に、石造彫刻物の一部破損やがれきの散乱による被害を受けたが、構造上の大きな被害がなかったのは幸いであった。14年の東ジャワのケルート山の噴火による被害も受けている。
幾多の災難を克服しながら、再建は着実に進んでいるようだが、建物の重要なパーツであるべき多くの石が、無造作に山積みされているのが気になる。散逸した石も含めていつになれば本来あるべき所に収まるのか。ただ、初めてここを訪れた香港駐在時代の38年前には、メーンの3寺院のみであったように記憶しているが、今は8塔が見える。塔の数がこのように増えているのは予想外であった。関係者の多大の努力の成果であろう。次に来る機会があれば、さらに復元が進んでいることを望むばかりである。
寺院の外壁を飾る女神像や動物の彫刻も見ごたえある。牛の石像が寺院内部に鎮座していた。牛はシバ神の乗る動物とされ、ヒンドゥー教で神聖とされる。
■ボコの丘
プランバナン寺院群の遠景が見られると言うので、3キロ南のボコの丘に行った。ムラピ山の裾野を背景とするプランバナンが見えた。丘は標高196メートルにあり、丘には石像建造物の廃墟がある。これが何の目的で造られたのかは、未だ解明されていない。
周辺に多くの寺院を建立し大乗仏教を信奉していたシャイレーンドラ王朝(752?~832年?)、もしくは古マタラム王国(717~929年)の時代のものであるが、ここは宗教的なものと言うより、要塞であったのではないかとの見方もある。
ようやくボロブドール寺院の公園内にある唯一のコテージ・タイプのホテルに投宿した。ボロブドール寺院からのご来光を見たく、早朝4時に起床。ホテルで懐中電灯を借りて、真っ暗闇の中を高さ33・5メートルの寺院のてっぺんまで登る。多くの訪問者が日の出を見るために、最適な場所を探しながら集まってくる。待つこと半時間ばかりであったか、東の空がほのかに明るくなった。朝の清々しい青空の下の薄紅色だ。美しい。
この遺跡は長い間、森の中に埋もれていた。このように日の目を見ることなく、人々にも気付かれず沈黙の時代が長かったのである。今は穏やかな朝日を受け、神々しい雄姿を惜しげもなくさらけ出して、早朝から多くの人々に愛でられている。(「インドネシア香料諸島」=宮崎衛夫著=より)