またいつの日か
午前8時15分発のフライトでジャカルタ経由ジョクジャカルタに向かうため、テルナテのホテルを午前6時過ぎに出ると、ちょうど日の出直後の朝焼けの写真が撮れた。昨日は夕焼けを西の空に見た。今朝はハルマヘラ島方向の東雲に上る太陽を拝めた。どちらも天候に恵まれたおかげだ。
早朝の清らかな空気の漂う中、淡い色の空と雲、それに一条の光を受ける海が美しい。日の出の太陽の輝きを受けて、空と海とそれに島が一体化しているように見える中、数隻の漁船の影。マルク諸島の「ますらお」は本来海の人間だ。漁師たちは朝早くから海に出ている。この麗しいマルク海と芳香を吹き送ってくれた島々ともお別れだと思うと、旅の寂寥(じゃくりょう)さえ感じる。昨夕に続きずっと海を眺めていたく、この場を離れがたい思いだ。
空港への途中、カトリック教会とモスクを見つけた。ここはティドレ島と違い、キリスト教徒もいるのだ。この教会の側面にはザビエル像が飾られていた。教会、モスクとも新しいのは、マルク宗教騒乱の後に建て替えられたものであろう。二度と悲惨な宗教紛争が起こらないことを祈る。
アンボン、テルナテ、ティドレと歩いてきた。世界地図上では、いやインドネシアの地図でも見落としてしまいそうな小さな島々である。大航海時代までの長い間、香料を求めるヨーロッパ人にとって、捜し求めてもその所在が分からず「知られざる地、未知の地」であったが、今は訪れる人も少なく、世界から「忘れられた土地」のようで歴史の片隅に埋没してしまっている。
15~18世紀にポルトガル、スペイン、イギリス、オランダが争奪戦を繰り広げ、美しい海におびただしい血が流されたということが、受け入れ難いほど穏やかで美しい島々であった。
垣間見た歴史の跡への思いは尽きないが、今は南海の透き通るような青い海に浮かぶ島々に別れを告げ、ここで毎日の営みを続けていく人々につぶやくのである。
Selamat tinggal!! Kapan kapan berjumpa lagi. お元気で、またいつの日かお会いしましょう。(「インドネシア香料諸島」=宮崎衛夫著=より)