街ににぎわい、住居は分断 「宗教抗争」勃発20年 アンボン

 インドネシア・マルク諸島のアンボン島でイスラム教徒とキリスト教徒の大規模な衝突が1999年に勃発して、19日で20年を迎えた。「宗教抗争」は、島内各地やマルクの他の島々に飛び火し、2002年に和平合意が成るまでに少なくとも5千人の命を奪ったと言われる。この日、アンボンでは抗争に関する行事は目に付かず、繁華街は抗争以前と同じように、異なる宗教の人々でにぎわっていた。しかし、住む地域は別々だ。住民同士の殺し合いの記憶が、入り交じって暮らすことを難しくさせている。

 アンボン中心街のマルディカ市場で起きたミニバス運転手らのけんかに端を発する衝突は、その日のうちに約2キロ南西のワリンギン地区にも拡大した。
 同地区の菓子製造業アニさん(50)は「翌日、高台から、彼らが襲ってきた。妊娠中の私は3歳の娘を連れて逃げた。この辺りの300世帯ほどのイスラム教徒の家々は放火され、焼き尽くされた。私の家も全焼した」と振り返る。抗争は02年の和平の後も、散発的に起き、「04年の騒動でも、わが家は全焼させられ、11年には2階が焼かれた」
 「最近は騒動は起きていない。学校や仕事でも二つの宗教の人は一緒にやっている。でも住む所は別。抗争前のように一緒の所には住めない。怖いから」とアニさんは声を落とした。
 大通りでマカッサル料理の食堂を切り盛りする女性、フォニーさん(51)は華人のキリスト教徒。「争乱が起きてスラバヤに避難した。帰ってくると店は破壊され、中もすっからかん。ここから空が見えたのよ」と天井を指さした。
 フォニーさんは事業の拡大を夢見る。「店員がクリスマス休暇から戻っていないので、今はナシ・クニンしかないけれど、もうすぐ元のメニューに戻すからね」とほほ笑んだ。
 マルディカ市場に隣接する、イスラム教徒の多いバトゥメラ地区の喫茶店。友人とコーヒーをすすっていた高速ボート船頭デニーさん(49)はスラウェシ島にルーツを持つブキス人だ。20年前のことを聞くと、「境界線がつくられ、越えようとすると撃たれるってことだ」と短い答え。
 喫茶店の壁には、オランダの植民地支配に抵抗して処刑されたマルクの英雄、パティムラの肖像画。店のカラオケセットから流れる五輪真弓の「心の友」を聞きながら、デニーさんが「パティムラの心を表す『ALE RASA、BETA RASA』というアンボンの言葉を知っているか」と問うてきた。
 「『あなたが感じれば、私も感じる』という意味だ。つまり、あなたが苦しいと感じるなら、私も苦しいと感じる。この心を忘れたら、また争乱が起きるよ」(米元文秋、写真も)

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